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はりねずみが眠るとき

昼寝をしながら本を読み、ビールを空けて料理する日々

『幸福な食卓』

「本屋大賞受賞記念連載!」と銘打ち、引き続き、瀬尾まいこを再読している。『幸福な食卓』は2004年に発行されているから15年ほど前に読んだ本だ。

家族であること、そして親しい人の死というものを描いた小説である。

 

1章『幸福な食卓』

佐和子は中学二年。家族は、5年前自殺未遂をした父。それに耐えきれず家を出てひとり暮らす母。頭脳明晰なのに大学へ行かず農業に携わる兄。それでも、朝食に家族が揃い、重要な決心や悩みを告白するという習慣は続いている。母が抜けた3人の食卓で、父が言った。

「父さんは今日で父さんを辞めようと思う」

「うちの家族って崩壊してるのかな?」

私がプリンにスプーンを突き刺しながら言うと、母さんが目を丸くした。

「どうして? 恐ろしく良い家族だと思うけど」

「父さんが父さんを辞めて、母さんは家を出て別に生活してる」

坂戸君の言うのが家庭崩壊なら、うちだって立派に崩壊してる。

「でも、みんなで朝ご飯を食べ、父さんは父さんという立場にこだわらず子どもたちを見守り、母さんは離れていても子どもたちを愛している。完璧」

母さんは笑った。

2章『バイブル』

頭脳明晰でかっこよく優しくておもしろい兄、直ちゃんはなぜかフラれ続けている。新しい彼女ができても3カ月ほど経つと決まったように別れを告げられる。

「この遺書、優れものなんだぜ。ちゃんと最後に、長生きの秘訣が書いてあるんだ」

「長生きの?」

「うん。父さんは、真剣ささえ捨てることができたら、困難は軽減できたのにって書いてた。その通りだと思う。僕もその方法を使った」

(中略)

だからだ。だから直ちゃんはすぐに失恋するんだ。どうして私は今まで直ちゃんの大きな欠落部分を見落としていたのだろう。私が頭痛を起こすように、母さんが家を出たように、直ちゃんにもやっぱり何かが起こっていたのだ。

3章『救世主』

高校に入学した佐和子は、塾で知り合った大浦君とつきあうようになる。だがやりたくもない学級委員になってしまい、教室の空気がどんどん濁っていくのを止められない。

「お前、女だろう? それをいかすんだ」

「どうやって?」

「強くて、クラスでも力持ってる男。そういう奴らを味方につけるんだ」

4章『プレゼントの効用』

もうすぐクリスマス。佐和子は大浦君にマフラーを編み、大浦君は佐和子のプレゼントを買うために新聞配達を始めた。

「意外だねえ。大浦君、接客とかの方が向いてそうなのに。八百屋さんとか、居酒屋さんとかさ」

「確かにそれはそうだけど。でも、中原、新聞配達とか好きじゃん」

「そうなの?」

私は眉をしかめた。新聞配達が好きだとは、自分でも初耳だ。

「初めはマクドナルドとかも考えたんだけど、ああいうポップなのってお前の好みじゃないだろ? 朝早くからしっかり身体を動かしてお金をもらう。そういうわかりやすいのが中原は好きだからさ」

ほんとうに心から大切にしているものを失くしたとき、どうしたらいいのだろう。たぶん、答えはいくら探しても見つからない。

ただ、目を向けてほしいと、この小説は言っているのかも知れない。

自分の周りにまだ残っている、大切なものたちに。

食卓で、家族としゃべっていますか?

北乃きい主演の映画、観たなあ。山梨でもロケされたんですよね。

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PROFILE

プロフィール
水月

随筆屋。

Webライター。

1962年東京生まれ。

2000年に山梨県北杜市に移住。

2012年から随筆をかき始める。

妻であり、母であり、主婦であること、ひとりの人であることを大切にし、毎日のなかにある些細な出来事に、様々な方向から光をあて、言葉を紡いでいきたいと思っています。



『地球の歩き方』北杜・山梨ブログ特派員

 

*このサイトの文章および写真を、無断で使用することを禁じます。

 

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