野良猫だったナナの語りで始まるこのストーリーは、連作短編になっている。
交通事故でケガしたナナは、ひとり暮らしのサトルに助けられ飼い猫となるが、サトルはある事情からナナが飼えなくなってしまった。
そこでひとりと一匹は、旅に出る。ナナの飼い主探しの旅。
「僕の猫をもらってくれませんか?」
そうメールし、サトルはナナを連れ、友人たちのもとを訪ねて回る。
ナナは思うのだが。
野良だってやっていけるし、じつを言えばサトルと一緒にいたいと。
report-01 コースケ
最初に訪ねたのは、小学校の同級生だった幸介。
ナナとそっくりだった捨て猫のハチを一緒に拾った、幼馴染みだ。
幸介が父親のこと、別居中の妻のことで悩んでいる今と併せて、サトルが小6のとき交通事故で両親を亡くし、母親の妹である叔母にひきとられ、ハチを手放したいきさつが語られる。
report-02 ヨシミネ
次は、中学時代の同級生、吉峯。
離婚した両親どちらからも手を差し伸べられず祖母の家で暮らした吉峯の今と、中学時代、修学旅行を抜け出しハチに会いに行こうとしたサトルのエピソード。
report-03 スギとチカコ
高校時代の同級生、杉と千佳子。
彼らは結婚し、ペットOKのペンションを営んでいた。軽く三角関係だった3人のエピソード。
report-04 最後の旅
フェリーに乗って北海道へ渡ったサトルとナナ。
サトルの両親の墓参りをする。
report-05 ノリコ
サトルを育てた法子は、今、札幌で働いていた。
おおらかで優しい姉と違い、ストレートな物言いしかできない自分と暮らして、果たしてサトルは幸せだったのか。転勤も多く、ハチとも別れさせてしまった。
サトルは、ナナを受け入れてくれた法子とふたたび暮らし始める。
「新しいほうがさっぱりしそうなものなのに……」
そういうもんじゃないんだよ、お生憎さま。
「それに明らかにサイズが小さい箱にも一応入ってみようとするのはどうしてかしらね。見てわかりそうなものだけど」
うっ、痛いところを突いてきたな。
「この前、アクセサリーが入ってた空き箱に前足を突っ込んでたわよ」
「そうそう、猫ってそうなんだよね」
サトルは嬉しそうに相槌を打った。
「腕時計が入ってたような小さな箱にも一応は手を入れてみるんだよね」
こればっかりは、本能としか言いようがない。あまねく猫は自分がすっぽり収まるすてきな隙間を常に探し続けているのである。
サトルの周囲の人たちは、みな不思議がる。
子ども時代に両親をいっぺんに失うという不幸に見舞われた彼が、なぜ底抜けに明るく愛にあふれているのだろうかと。
サトルが「自分は幸せだ」という揺るぎない気持ちを持ち続けている理由とは?
ラストそれが明かされる。
愛された記憶が、消えることはない。それが人でも、あるいは猫でも。
表紙の絵は、村上勉。映画は2018年10月26日公開だそうです。
随筆屋。
Webライター。
1962年東京生まれ。
2000年に山梨県北杜市に移住。
2012年から随筆をかき始める。
妻であり、母であり、主婦であること、ひとりの人であることを大切にし、毎日のなかにある些細な出来事に、様々な方向から光をあて、言葉を紡いでいきたいと思っています。
*このサイトの文章および写真を、無断で使用することを禁じます。
管理人が承認するまで画面には反映されません。