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はりねずみが眠るとき

昼寝をしながら本を読み、ビールを空けて料理する日々

『木曜日にはココアを』

驚いた。やっぱり本の神様は、いるのだ。

友人に貰った本を読んだ。

「たぶん、好きだと思うよ」

そう言って、手渡してくれた。

 

『木曜日にはココアを』(宝島社)は、12編の連作短編集で、それぞれの物語にテーマカラーが置いてある。たとえば、毎週木曜午後3時にココアを飲みに来る女性に、マーブル・カフェの若き店長は恋をしている。冒頭の表題作はココア色(Brown)だ。そして、小説のなかには次の小説へのバトンが用意してある。マーブル・カフェで忙しそうにタブレットで仕事をしていた女性が、次の『きまじめな卵焼き』(Yellow)の語り手となる。

 

そして、次は(Yellow)の女性の娘が通う、幼稚園の新米先生(pink)へ。さらに先輩の先生(Blue)へ。その親友で結婚を控えた女性(Red)へ。新婚旅行先のシドニーで出会った金婚式を迎えた夫婦(Gray)へ。ここから舞台はシドニーに移る。彼らが食事したレストランで働く画家志望の女性(Green)へ。彼女のお気に入りのサンドイッチ屋を営むオーストラリア人の男性(Orange)へ。彼が恋した(Turquoise)へ。同じ友人を持つ翻訳家の女性(Black)へ。カフェで隣り合った女性(Purple)へ。そして、日本にいる彼女の友人(White)へ。

「ねえ、心理テストです。何色が好き?」

唐突に言われて、ラルフさんは戸惑いました。しかし、ふわりと鼻をくすぐるスイートな香りに引き寄せられるように、「オレンジ」と答えていました。

「どうして?」

小首をかしげるシンディのかわいらしいことと言ったら。ラルフさんもつられて笑顔になり、続けました。

「楽しい色だから。赤ほど自己主張が強くないし、黄色ほど奇抜じゃない。人を明るく迎え入れてくれて、元気で愉快な気持ちにさせてくれるから」

シンディは一瞬まばたきしたあと、「ええ、そうね」とほほえみました。

「これはね、『なりたい自分』なんですって」 

なんて、やわらかなシーンを紡ぎながら。

 

何に驚いたかと言うと、物語のなかでシドニーで暮らすメアリーがホームステイしていたマコと、たがいの国の春を告げる花を見せ合うシーンがあり、マコは桜の写真を、メアリーは10月に咲く街路樹の紫の花ジャカランダを見せる。

これと同じことがあった。

シチュエーションは違っていたけど、ご主人の転勤でロサンゼルスで暮らす友人に桜の写真を送ったことがある。すると、桜は見かけないけどと言ってジャカランダの写真を送ってくれた。桜のような大木に紫の花がたくさん咲いているのがとても不思議だったのでよく覚えている。

この本をくれた、今は東京で暮らす友人である。

物語のなかのふたりにとって、ただ花を見せ合うだけのことじゃなかったように、わたしたちの写真交換も言葉にできない思いがこめられていた。

 

そんな小さな思いのカケラを、人はいつも交換し合っている。12色の物語は、忘れていた気持ちを思い出させてくれた。

CIMG8915ミニチュアの世界が素敵な表紙です。カップにココア入ってる!

CIMG9244裏表紙です。桜の季節になっています。

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PROFILE

プロフィール
水月

随筆屋。

Webライター。

1962年東京生まれ。

2000年に山梨県北杜市に移住。

2012年から随筆をかき始める。

妻であり、母であり、主婦であること、ひとりの人であることを大切にし、毎日のなかにある些細な出来事に、様々な方向から光をあて、言葉を紡いでいきたいと思っています。



『地球の歩き方』北杜・山梨ブログ特派員

 

*このサイトの文章および写真を、無断で使用することを禁じます。

 

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