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はりねずみが眠るとき

昼寝をしながら本を読み、ビールを空けて料理する日々

『本と鍵の季節』

〈小市民〉シリーズを読み終えてしまい淋しくて、米澤穂信の青春ミステリに手を出した。放課後の図書室に持ち込まれる謎を解くのは、図書委員の高2男子ふたり、堀川次郎と松倉詩門。

〈小市民〉よりビターでクールな雰囲気を持つ、6編から成る連作短編集だ。

 

「913」

タイトルの数字は、図書室の本の背表紙に貼られた分類ナンバーだ。

主役の堀川と松倉は図書委員で、ふたりで当番をしている。

「ひどいな」

表紙は真ん中あたりで折れ曲がり、全体的に乾いた泥で汚れている。

「どうしたらこうなるんだ」

松倉がそう言うので、適当に思いついたことを言ってみる。

「読みながら泥沼に突っ込んだんじゃないか」

「ダイナミックな読書だな。いい趣味だ」

堀川は、松倉のほどよく皮肉屋なところが気に入ってつるんでいる。

そこに来たのは、サバサバしていてちょっと可愛い3年女子、浦上先輩。祖父が遺した“開かずの金庫”を開けてみないかという。

 

「ロックオンロッカー」

ふたり仲良く美容院に行く羽目になった堀川と松倉。

堀川行きつけの店なのだが、どうも様子がおかしい。

髪を切ってさっぱりしたふたりは、美容室向かいの道端で、推理を繰り広げる。

 

「金曜に彼は何をしたのか」

学校のガラス窓が割られた。試験直前の職員室近く。テスト問題が盗まれたかと騒然となる。教師は、もっとも不良然とした堀川たちの同級生、植田を呼び出した。兄は多分やっていない。1年の図書委員植田弟に、嫌疑を晴らせないかと頼まれるのだが。

 

「ない本」

自殺した友人が最後に読んでいた本を探したい。3年男子が図書室にやってきた。それは“ない本”だった。

 

「昔話を聞かせておくれよ」

退屈していた図書室で、堀川は松倉と、それぞれの昔話を話すことになってしまう。

僕はただ夏の思い出をしゃべるだけのつもりだった。それなのに松倉は、親父の作戦にも、僕が親父の作戦を台無しにしたことにも気づいてしまった。言いたいことだけを言うのは難しい。言いたくないことまで伝わってしまう。

堀川は昔話にすら難航したが、松倉は意外にも、6年前から探し続けている金の在処を突き止めるという謎解きを持ちかけてきたのだった。

表題作と言っていい、クライマックス編。

 

「友よ知るなかれ」

解けたと思われた昔話の謎解き。けれど、堀川には腑に落ちないことがあった。松倉はこの件に関しては嘘はついていないと断言していたはずだが。堀川はひとり謎解きを始めた。

やばいときこそ、いいシャツを着るんだ。

堀川は、友の隠れた一面を知ることとなるのだった。

 

コージーミステリーと侮るなかれ。

なーんて、侮ってたのはわたし。これは、コージーではなく、ビブリオ色もさほど濃くはない。そう。本格ミステリなのだ。

読み終えて、やっぱりミステリーはいいなあ、と実感する。

謎解きをしているあいだ、心の闇は扉の向こうにあり、しばし忘れることすらある。しばらくミステリーを読み続けようと、心安らかに思うのである。

続編『栞と噓の季節』が新刊で出たばかりです。文庫になるまで待つか~?

 

・コージーミステリ:日常のシーンのなかにある軽い謎解きを描いたミステリ。

・ビブリオミステリ:本の内容に深く関わるミステリ。

 

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PROFILE

プロフィール
水月

随筆屋。

Webライター。

1962年東京生まれ。

2000年に山梨県北杜市に移住。

2012年から随筆をかき始める。

妻であり、母であり、主婦であること、ひとりの人であることを大切にし、毎日のなかにある些細な出来事に、様々な方向から光をあて、言葉を紡いでいきたいと思っています。



『地球の歩き方』北杜・山梨ブログ特派員

 

*このサイトの文章および写真を、無断で使用することを禁じます。

 

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