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はりねずみが眠るとき

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『盲目的な恋と友情』

辻村深月のミステリー『盲目的な恋と友情』(新潮文庫)を、読んだ。

辻村深月の小説は、8年ほど前にハマって何冊か読んだきりになっていたので、久しぶり。角がとれて読みやすくなったなあと、するすると読んでいった。

 

大学のオーケストラでヴァイオリンを弾く一瀬蘭花は、セミプロの指揮者、茂実星近と恋に落ちる。茂実との恋に深く深く落ちていく蘭花は、彼の裏切りや堕落の渦にさえも落ちていく。それでも茂実への思いを断ち切れない蘭花の傍らには、いつもオーケストラで一緒だった親友、留梨絵がいた。

 

小説は、蘭花が語る『恋』の章と、留梨絵が語る『友情』の章で構成されている。以下、蘭花が語る『恋』の章から。

二人が、卒業を機に、連絡も取らないほどの絶交状態になっていたことを、私はそれから数日して、美波の口から聞いた。「なんかよくわからないけど、嫌われちゃったんだよ」と、美波が言う。

「だけど、びっくり。オケのみんな、そのこと気にしてかなり気を遣ってたと思うのに、蘭、気づいてなかったの?」

「ごめん。鈍くて」

正直、茂実とのことでそれどころじゃなかった。

「まあ、いいけど」と美波が嘘のない顔で笑った。

「蘭のそういうところが、私は好きだから」

昔、私のことを「客観的なところが好き」と、美波が言っていたのを思い出した。自分と絶縁状態にある友達と暮らす私と、それを意に介さずに会う美波も、ともに暮らす留梨絵も、二人とそれぞれ友達付き合いを続ける私も、その時彼女が言っていた”客観性”をもっている気がしたが、考えてみればそれが女友達というものなのかもしれない。

以下、留梨絵が語る『友情』の章から。

泣きじゃくる蘭花を慰めながら、この美しい子の悲しみが私に伝染していく。私には遥か遠い世界を、この子は全身で私の代わりに経験している。恋とか、茂実とか、不倫とか、愛人とか、そういう世界を。

学科でもその頃、違うグループの子たちがよく恋愛の話をしていて、そういう時、私はどこか肩身が狭いような気がしていたけど、蘭花がいれば、怖くなかった。

私だって、それくらいの話、蘭花から聞いている。

相談を受けている。

単なる浮気や合コンの話なんて、蘭花が巻き込まれている出来事に比べればたいしたことはなかった。何より、蘭花より美しい子も、すごい相手と付き合っている人もいない。

できることなら、学内で、私と蘭花が一緒に歩いているところを、その子たちにも見せたい。見てもらいたい。私をこれまでバカにして、私を傷つけてきたすべての人に、蘭花を見せたい。

蘭花が茂実に盲目的な恋をするのと同じくらいに、留梨絵は女友達である蘭花に盲目になっていた。盲目という言葉の通り他の何もかもが見えなくなるほどに。

 

印象的だったのは、茂実の親ほどの年齢の愛人、菜々子の存在だ。彼女は、茂実の恋人にはなれないからこそ、彼を支配することに喜びを感じていた。

しかし、と考える。誰かを、人を支配することなど、誰にもできない。恋人でも、親友でも、親子でも、夫婦でも。それでも、誰かを好きになるという気持ちは、誰かを支配したいという欲望と紙一重なのだ。

驚きのラストと読んでいたにもかかわらず、戦慄が走った。痺れました。

CIMG4528解説は、大好きな小説家山本文緒です。以下、解説から。

留梨絵は本当のところ、蘭花よりも美波のことのほうがずっと羨ましかったのではないかと思う。留梨絵が苦心して努力して、蘭花の口から”親友”という評価を引き出そうとしているのに、美波は何の苦労もなく、蘭花から親友認定されている。蘭花や美波にとって親友枠は複数だが、留梨絵にとって親友とはたったひとりだ。その椅子を巡って留梨絵は戦っているが、美波はまさかそんな戦いを仕掛けられているとは夢にも思わない。

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PROFILE

プロフィール
水月

随筆屋。

Webライター。

1962年東京生まれ。

2000年に山梨県北杜市に移住。

2012年から随筆をかき始める。

妻であり、母であり、主婦であること、ひとりの人であることを大切にし、毎日のなかにある些細な出来事に、様々な方向から光をあて、言葉を紡いでいきたいと思っています。



『地球の歩き方』北杜・山梨ブログ特派員

 

*このサイトの文章および写真を、無断で使用することを禁じます。

 

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