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はりねずみが眠るとき

昼寝をしながら本を読み、ビールを空けて料理する日々

『私の命はあなたの命より軽い』

近藤史恵のミステリーを、久しぶりに読んだ。

『私の命はあなたの命より軽い』(講談社文庫)。タイトルは、堕胎された赤ん坊が、祝福されて生まれてくる赤ん坊に向けて放つ言葉だ。

 

初めての出産を控えた遼子は、夫が急に海外赴任することになり、大阪の実家で里帰り出産することにした。だが、快く迎えてくれると思っていた両親も、仲のいいはずだった歳の離れた妹の美和もどこかよそよそしい。3年の間に、家族に何があったのか。なぜ誰もそれを話そうとしないのか。

新築で購入したばかりの家を売ろうとする両親。

自殺したという美和の親友。

やっとみつけた産婦人科の名前を言った途端、凍りついた空気。

 

遼子は思い知っていく。自慢に思っていた仲のいい家族の本当の姿を。それは知らない姿というより、意図して見ようとしてこなかった姿だった。

自分を可愛がってくれていた父があんなにはっきりと態度を変えた。母もこの調子では美和の味方についたとは思えない。知られただけで、絆は簡単に壊れてしまう。美和はそう思ったはずだ。

父と母のことを優しい人だと思っていた。だが、その優しさは自分たちが認めるガイドラインを守った人にだけ向けられるものだった。そのことがどうしようもなくつらかった。

いまだにふたりは、自分たちが悪いとは思っていない。

読みながら離れて暮らす家族、両親や子どもたちに思いを馳せた。

わたしは、ケガや病気をしたところで大事がないとき彼らに連絡したりはしない。たぶん、両親や子どもたちもそうだろう。しかしその「大事がない」というのは、どの程度のことを指すのか。心配かけたくない。負担をかけたくない。面倒に思われたくない。そんな気持ちから口にしないことが増え「大事がない」の幅は広がり、距離は自然と空いていく。そんなふうにして、見えない場所に見たくないものたちが、こっそりと置かれ増え続けているとしたら。

そう思うと身近に感じるだけに、怖さが迫ってきた。

家族というものの心の奥底を覗く、心理ミステリー。

CIMG1165帯の「怖いのは女だけですか?」は、文庫版あとがきにかかれていました。

男同士が敵対しているときや、男と女が敵対しているときにはなにも語られない。女同士が敵対したときだけ「女の敵は女だ」としたり顔で言われるのだ。まるで女同士の連携など、この世にはありえないとでも言うように。

怖いと言われる女たちの影には情けない男やずるい男たちがいるってことかな。

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PROFILE

プロフィール
水月

随筆屋。

Webライター。

1962年東京生まれ。

2000年に山梨県北杜市に移住。

2012年から随筆をかき始める。

妻であり、母であり、主婦であること、ひとりの人であることを大切にし、毎日のなかにある些細な出来事に、様々な方向から光をあて、言葉を紡いでいきたいと思っています。



『地球の歩き方』北杜・山梨ブログ特派員

 

*このサイトの文章および写真を、無断で使用することを禁じます。

 

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