湊かなえの4編から成る4人の女性を描いた連作短編集。
舞台は、トンガ(南太平洋に浮かぶ約170の島群からなる国)と、そして1995年阪神淡路大震災に見舞われた神戸だ。
『楽園』
大学生の雪絵は、ひとりトンガに渡る。
彼女は、5歳のときに震災で双子の片割れを亡くしていた。
「マリエ」
亡くした姉の名だ。そう名乗り旅をした。あの場所”楽園”を探して。
『約束』
理恵子はフィアンセを残し、2年間の海外ボランティア隊でトンガに来ていた。
毎週日曜の礼拝で、祈る。逝ってしまったふたりに「ごめんなさい」と。
トンガ人の友人は言う。
死とはイエス様と同じ世界に住むことが許されたという証しで、喜ばしいことなのだ。だから、死は悲しむべきことではない。親しい人との別れは悲しいけれど、祈りをかかさずにいれば、いずれまた同じ世界に住み、話したり笑い合ったりすることができるようになるのだから。
『太陽』
大学中退して花恋(かれん)を産んだシングルマザー杏子は、預ける当てもなく部屋に5歳の娘を置いたまま毎夜仕事へ出かけていたが、火事で焼け出されてしまった。
「この子さえ、いなければ」
そんな思いを抱え、震災のときに出会ったトンガ人のボランティア男性に会おうと花恋とふたりトンガへ渡る。
「あの写真にどんだけあっためてもらったか。宝物でした。でも、あたしにとっても太陽はセミシさん自身でした」
「ありがとうね。そんなふうに思ってくれて。でも、セミシはこんなふうに言ってた」
セミシはナオミさんにこう言った。
――子どもは太陽だ。
『絶唱』
大学のミュージカル同好会。3人して笑い上戸になり合唱したあの夜の思い出。けれど、震災で静香が亡くなり、泰代はすぐに避難した千晴を責めた。
わたしは大切な人の身を案じて内側へ向かうことができる場所にもいたのです。電車が停まっていても、自転車で向かうことができた。どんな悪路になっていたとしても、二時間はかからなかったはずなのに、駅で二時間並び、外側へと逃げていったのです。
解説の中江有里は、4話目『絶唱』は、私小説的要素を感じるとかいている。
後悔、後ろめたさ、あきらめ――本当なら大きな声で言えない心残りが物語の端々から主人公の声を通してあふれてくる。
4人は、何かに導かれトンガへと渡った。海の色が”青”という言葉では表現しきれないほどに美しい島へと。
「誰にも言えない秘密を抱え、四人が辿り着いた島――」
帯の「ごめんなさい」の行間には、そうかかれています。
随筆屋。
Webライター。
1962年東京生まれ。
2000年に山梨県北杜市に移住。
2012年から随筆をかき始める。
妻であり、母であり、主婦であること、ひとりの人であることを大切にし、毎日のなかにある些細な出来事に、様々な方向から光をあて、言葉を紡いでいきたいと思っています。
*このサイトの文章および写真を、無断で使用することを禁じます。
管理人が承認するまで画面には反映されません。