主人公ミチルの「身の上話」は、彼女が23歳のある日のことから始まる。
語るのは、のちにミチルの夫となった男で、ミチルから聞いたという出来事を事細かに順を追って話していく。
ミチルは23歳まで、海辺の田舎町で両親とともに暮らし、書店で働いていた。「特筆することもない人生」だったと語られている。
と言っても、1年以上つきあっている彼、久太郎との結婚を考えないわけでもないし、書店に月一度東京からやってくる大手出版社の男、豊増と不倫関係を続けてもいる。「土手の柳は風まかせ」というところが、彼女にはあったらしい。
あの日書店の昼休み、衝動的に豊増と一緒に東京行きの飛行機に乗りこんでしまったのも、風まかせだったのだろう。
ただ、その風は思いのほか強く吹いていた。職場の3人から宝くじを買ってくるように頼まれていて、無論そのときには東京へなど行くつもりもなく宝くじを購入していたのだが、バラで買ったうちの1枚が2億円の当たりくじだったのだ。
2億円とともに「『その日』から読む本」が、ミチルに手渡される。宝くじ高額当せん者に手渡される読本だ。
あなたに知っておいてほしいのは、人間にとって秘密を守るのはむずかしいということです。たとえひとりでも、あなたがだれかに当せんしたことを話したのなら、そこから少しずつうわさが広まっていくのは避けられないと考えたほうがよいでしょう。
ミチルはそれを誰にも告げず、田舎町に帰るのをやめ、東京で暮らしていこうとする。だが、ミチルを探し出そうとしたのはひとりやふたりじゃなかった。
やがてミチルは、事件に巻きこまれていく。愛憎劇という類のものになるのだろうか。愛と金とは切っても切れない仲なのだろう。
〈私〉と語るミチルの夫が何者なのか。終盤まで明かされない。
土手の柳は、どこまで風に吹かれていくのか。恐怖を感じつつ、ページをめくる手を止められなかった。
人がひとり行方不明になるのは、そう簡単なことではない。例え自ら望んだとしても、今生きている場所から消えてしまうことは、たぶんとても難しい。
それにミチルは、ひとりで生きたいとなどと思ったこともなかったし、ひとりで生きていくことなどきっと誰にもできないことなのだから。
人間って、怖い。何よりいちばん、怖いと思った。
「伊坂幸太郎おススメ」の帯に、手にとった人は多いんじゃないかな? 帯裏には「小説にとって大事なのは、ストーリー自体よりも、ストーリーをどう語るのか、だと思います」と伊坂幸太郎の言葉がありました。
随筆屋。
Webライター。
1962年東京生まれ。
2000年に山梨県北杜市に移住。
2012年から随筆をかき始める。
妻であり、母であり、主婦であること、ひとりの人であることを大切にし、毎日のなかにある些細な出来事に、様々な方向から光をあて、言葉を紡いでいきたいと思っています。
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