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はりねずみが眠るとき

昼寝をしながら本を読み、ビールを空けて料理する日々

いい知らせと悪い知らせがあります

森絵都の『風に舞いあがるビニールシート』(文春文庫)。

伊坂幸太郎の『マリアビートル』(角川文庫)。

村上春樹の『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』(文春文庫)。

この3冊には、共通項がある。小説のなかに「いい知らせと悪い知らせがあります」と言った意味合いの言葉が登場するのだ。

 

たとえば『風に舞いあがるビニールシート』に収められた『ジェネレーションX』。もと高校球児の主人公は、ひょんなことから人数調整中のチームに出会い、マウンドに立とうかという気になるのだが。

「朗報と悲報があります」

しかし、携帯電話をたたんだ石津は複雑な表情で健一に告げた。

「悲報のほうは、その……イワサキがフジリュウの説得に成功しました。フジリュウのやつ、やっぱだいぶ前からジムに通って鍛えてたそうで」

「そりゃ朗報だろ。よかったじゃないか」

「いえ、朗報は……代わりにひとつ、ポジションに空きができたんです」

『マリアビートル』は、意識不明の6歳の少年を、殺し屋から守るよう依頼された業者が、報告する。

「あ、木村さん、いい知らせと悪い知らせがありますよ」

繁が言う。木村茂は苦笑する。三十年前、木村たちと物騒な現場に出かけ、仕事をするたび、繁はその言い回しを好んで使った。「いい知らせと悪い知らせ、どちらから聴きたいですか?」

「いい知らせから言ってくれ」

繁は、はい、と緊張した声になると一息に、

「木村さんのお孫さんを狙った奴は、今、車道で転がってますよ。車に轢かれておしまいです」と言った。

悪い知らせの方は、何事も起きないように子どもを守れと言われたのに、格闘の際ベッドを揺らし、少年の意識を戻させてしまったということだった。

 

『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』では、主人公つくるが、6年ぶりに昔の親友のひとりアカから新入社員研修でする話だと聞かされる。

「さて、君にとって良いニュースと悪いニュースがひとつずつある。まず悪いニュース。今から君の手の爪を、あるいは足の爪を、ペンチで剥がすことになった。気の毒だが、それはもう決まっていることだ。変更はきかない」

おれは鞄の中からでっかくておっかないペンチを取りだして、みんなに見せる。ゆっくり時間をかけて、そいつを見せる。そして言う。

「次に良い方のニュースだ。良いニュースは、剥がされるのが手の爪か足の爪か、それを選ぶ自由が君に与えられているということだ。さあ、どちらにする?」

『風に舞いあがるビニールシート』では、朗報は悲報の代替えとなっている。

『マリアビートル』では、悪い知らせも「悪い」という形をとったいい知らせだった。

『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』では、悪いニュースで縛りを与えたなかでの自由を良いニュースと表現している。

ほかにも、いろいろなパターンの使い方ができそうだ。

 

この言葉、かっこよく使えたらいいなと思っているのだが、なかなかに難しい。

「悪い知らせは、夏風邪をひいたことです」

「いい知らせは、熱があるときって、腕にそよ風があたるだけでも痛みを感じるんだなあって思い出し、そう言えば先週夏風邪ひいていた夫も、寒い寒いって何度も窓を閉めてたなあと彼の気持ちに寄り添えたこと、ですかね」

CIMG1317どれも分厚い文庫本です。『風に舞いあがるビニールシート』のみ、短編集。

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PROFILE

プロフィール
水月

随筆屋。

Webライター。

1962年東京生まれ。

2000年に山梨県北杜市に移住。

2012年から随筆をかき始める。

妻であり、母であり、主婦であること、ひとりの人であることを大切にし、毎日のなかにある些細な出来事に、様々な方向から光をあて、言葉を紡いでいきたいと思っています。



『地球の歩き方』北杜・山梨ブログ特派員

 

*このサイトの文章および写真を、無断で使用することを禁じます。

 

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