夫の母は、家計について研究するサークルを長年続けていて、しっかりとした考え方を持っている。その義母の持論のひとつに、主婦は自分費を設け、毎月自分のために使えるお金を確保すべきだという考え方がある。習い事やサークル、友人との食事やお出かけ、美容室、洋服やアクセサリー、本などなど。当然だが、主婦といえど、そういう男性なら普通に持つおこづかい的お金は必要になってくるのは現実だ。
「また、買ったの?」と家族に言われることがあっても、「このなかで計画的に買ってるのよ」と胸を張って言えるよう管理することが大切だそうだ。
家計管理が苦手なわたしには、その管理、難しいのだが、主婦の自分費は確かに必要だということは実感している。自分のために使えるお金がないのって息がつまる。専業主婦だった義母ならではの、心地よく暮らす方法だったのだろう。
小説のなかでも、主婦のお金にまつわるエピソードがけっこうある。
読んだばかりの『Red』(中公文庫)には、子どもを保育園に預けて働きたいと奮闘中の女性の思いが描かれていた。
「食費とか雑費とか、ちゃんと渡しているだろう」
と言ったので、またびっくりした。
「そんなの、あなただってお義母さんだって翠だって食べるものだし、たとえば雑費のサランラップなんて、私個人にはなんの関係もないじゃない。今だって化粧品とか買うときには独身時代の貯金を切り崩して」
「それは仕事に復帰する前提だったから、それでいいって塔子が」
「だって、復帰できなかったじゃない」
「けど、そもそも結婚したら貯金なんてお互いの共有財産だろう。それを俺は、この家にいるかぎり家賃がかからないから塔子のお金は自分で持っていていいよっていうつもりで言ったんだよ。それを自分で稼いだんだから当たり前のように言われてもさ」
この家はあなたの財産じゃなくて親のでしょう、という一言をかろうじて飲み込んだ。
「俺だってさあ、まったくお金使うなとは言ってないよ。今度のホームパーティとか、そういうときには綺麗な格好してほしいって思うし。ただ、普段生活している分には必要なくない?」
奥田英朗の短編集『家日和』(集英社文庫)の『サニーデイ』には、子どもが中学生になり家族の全盛期は終わったと淋しく感じていた主婦が、ネットオークションにハマるストーリーが描かれている。
紀子は三千円で本を買うことにした。単行本なんてここ数年買い求めたことがなかった。読みたいものがあれば、たいてい図書館で済ませている。この地域の主婦はみんなそうだ。
そして。
紀子はその三千円で、念願の特上寿司をとって食べた。子供が生まれてからはずっと回転寿司ばかりだったので、ことのほかおいしく感じた。穴子なんて舌の上でとろけるほどだ。器は自分で返しに行った。子供たちに見られたら非難されるに決まっている。
さらには。
コーヒーカップ・セットは一万円で落札された。紀子は夜中に一人でバンザイした。美容院へ行こう。ヘアスタイルを変えて銀座へ映画を観に行こう。
森絵都の直木賞受賞作である短編集『風に舞い上がるビニールシート』 (文春文庫)の『犬の散歩』の主婦は、捨て犬の保護活動を始めて、預かった犬の餌代を自分で稼ごうとホステスを始める。
大学の頃、同じサークルに毎日毎日、牛丼ばかり食べている先輩がいたんです。彼は本当に牛丼が大好きだったから、なにもかも、世界のすべてのものを牛丼に置きかえて考えるのがつねでした。当時は牛丼が一杯四百円くらいだったかな。たとえば映画の料金が千六百円って、高いのか安いのか私にはよくわからなかったけど、その先輩にとってはすごくはっきりしていたんです。千六百円あれば牛丼を四杯食べられる、だからそれは高いって。
彼女は、その先輩の牛丼を中心にした世界があまりにも揺らぎなく確固としていて、うらやましく思っていた。そして、疾患を持った犬の八百円の缶詰を中心に自分の世界が回り始めたときに、これだ! 自分にも先輩の牛丼がやっとできたんだと喜び、しっかり稼ごうと思い切って水商売の世界に入ったのだ。
主婦のおこづかい、どうしていますか? どう思われますか?
印象に残っている文庫、お気に入りの文庫本は、保存しています。森絵都は、末娘が中学生の頃よく一緒に読みました。
私は自分の小遣いとして、家計とは別の財布を作っているんです。
自分の働いていた時は、その収入から。
今は仕事を辞めたので、主人の稼いだお金からちゃっかりいただいています。(笑)
習い事や映画代、ランチ代とか・・・
でもとてもアバウトなんですよ。
余れば繰り越ししますが、足らない時は銀行に行って、主人の口座からお金出してますからね。(^^ゞ
家計管理は金融関係に勤めていた事もあって、若い頃はきっちりしてたんです。
年と共にだんだん億劫になってきて、今はすっごくアバウトです。
そのアバウトさがいいと思ってます。
ユミさん
まさに義母がそんな感じなんです。
やっぱり歳をとってからはだいぶアバウトになっているようですが、以前は家計簿も細かくつけていてすごく驚いたのを覚えています。
わたしは家計簿が続かなくて(笑)今は、毎月銀行の残高チェック表を更新するようにしています。
あ、これは家計全体のですが。
わたしもアバウトですが、自分のために使うお金、しっかり持っています。
細かくなりすぎず、でもちゃんと自分が使える分を確保するっていうのがいいのかも知れませんね~♩
随筆屋。
Webライター。
1962年東京生まれ。
2000年に山梨県北杜市に移住。
2012年から随筆をかき始める。
妻であり、母であり、主婦であること、ひとりの人であることを大切にし、毎日のなかにある些細な出来事に、様々な方向から光をあて、言葉を紡いでいきたいと思っています。
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