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はりねずみが眠るとき

昼寝をしながら本を読み、ビールを空けて料理する日々

映画『生きてるだけで、愛』

映画『生きてるだけで、愛』の世界には、常に重く湿った空気が流れていた。その空気を受け入れられずあがくふたりの姿を描いたラブストーリー。いや、人間ドラマと言った方がいいかも知れない。

 

〈ストーリー〉

寧子(やすこ)と津奈木(つなき)は、同棲して3年。寧子は鬱状態に入ると、過眠が続きバイトも家事も何もできない。津奈木は、寧子が苛立ち感情をぶつけてきても、怒りもせずやり過ごすだけ。自分に向き合おうとしない津奈木に、寧子はまた苛立つ。繰り返しだ。ある日、津奈木の留守中に元カノ、安堂が訪ねてきた。よりを戻したいからと、一方的に津奈木と別れろと寧子に言うのだが。

 

〈キャスト〉

板垣寧子【趣里】躁鬱を繰り返し、鬱に入ると過眠状態が続く無職の25歳。

津奈木景【菅田将暉】物書きを夢見ていたが、ゴシップ雑誌の記事をかく毎日。

安堂【仲里依紗】津奈木の元カノ。鬱で働けないという寧子が許せない。

 

寧子は、理不尽とも言える言葉を津奈木に投げつける。寒いのにプレゼントした手袋をしない津奈木に、今手袋をしろと命令する。

つい「ふざけんな!」と怒鳴ってしまう。

「……や、別にふざけてないけど」

「ふざけてるでしょ! なんで家で手袋すんの? おかしいじゃん!」

「しろって言ったから……」

「言ったから何」

「……」

「え、どういう意味があってするのかとか考えないの、あんた自分で」

「ごめん」

「そのごめんはどういう意味。何について謝ってんの?」

くそ。違う。こんなことが言いたいんじゃない。おかしな方向に話がずれている。この馬鹿があたしをないがしろにするからだ。あたしのこと適当にあしらうから。あたしはあんたが手袋をはめて「本当だ、何これ。あったかいわ。すごいね、寧子」って感謝されたいだけなのに、なんでたったそれだけの簡単なことがうまくいかないんだ?

寧子は自分のなかに理不尽な部分を抱えていて、それを見逃すことができない。自分に正直に立ち向かってしまう。そんな自分に、津奈木にも立ち向かってほしいだけ。だけどうまくいかない。何もかも、何もかもがうまくいかない。なんでうまくいかないんだろうと憤る。そしてこのセリフが吐き出された。

生きてるだけで、ほんと、疲れる

映画は、子どもの頃のことを思い出すシーンから始まった。

停電したときに限って、裸の女が踊ってる夢を見たという寧子に、姉が言う。それはお母さんだと。映画にはそこにしか登場しなかった寧子の母親は、小説では鬱で寝てばかりいたとかかれていた。つまり、現在の寧子と同じような状況だったわけた。

そのシーンは、映画のラスト、ブレーカーが落ち真っ暗ななかで寧子が全裸で踊るシーンとつながっている。

遺伝とか、母親に似ているとか、そういう話ではない。心の闇というモノは沈んでは浮き上がり、そんななかで人間は生きるということを繰り返していくしかない。描かれているのは、その哀しさだ。

津奈木もまた、自分が表に出せないどうにもならない思いを、寧子のなかに見いだしている。

 

ゆったりとしたなかに力強さと切なさが綯交ぜになったようなエンディングテーマ『1/5000』は、小説の表紙絵となっている葛飾北斎の『富嶽三十六景』のエピソードになぞらえている。北斎が描いた富士山に波がかぶさる絵は、1/5000秒のシャッタースピードで撮られた写真と寸分違わぬという。津奈木とわかり合えた瞬間などほんの一瞬しかない。だけど、と寧子は思う。

「あたしはもう一生、誰に分かられなくったっていいから、あんたにこの光景の五千分の一秒を覚えてもらいたい」

映画にはなかったセリフ、そしてエピソードだ。

津奈木の底知れない心の闇を、菅田将暉は淡々と演じ、身体じゅうから発する叫びを演じながら趣里には、いつしか寧子が棲んでいた。

北斎の絵をピンクにした表紙です。小説のレビューは → こちら

新宿ピカデリーで。

パンフレットは、赤と黒に白抜きの文字。

凛とした雰囲気の寧子を演じる趣里の横顔。

鬱に入ると過眠が続き、なかなか起きられない寧子。

印象的なシーン。

ふたりは同じ方向を向いていたのだろうか。

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PROFILE

プロフィール
水月

随筆屋。

Webライター。

1962年東京生まれ。

2000年に山梨県北杜市に移住。

2012年から随筆をかき始める。

妻であり、母であり、主婦であること、ひとりの人であることを大切にし、毎日のなかにある些細な出来事に、様々な方向から光をあて、言葉を紡いでいきたいと思っています。



『地球の歩き方』北杜・山梨ブログ特派員

 

*このサイトの文章および写真を、無断で使用することを禁じます。

 

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