とても久しぶりに、本屋をゆっくりと歩いた。
ショッピングモールとまではいかない田舎のショッピングセンター内にある本屋は、スペースは広々としていて、人は少ない。
小説も新刊コーナーは1列しかなく、しかし文庫は6列ほどあり出版社別に並んでいる。
今このときの自分だからこそ出会うことができる小説は、どこに眠っているだろうか。
いったい自分は今、どんな小説が読みたいのだろうか。
その答えは、はっきりとした言葉で言い表すのは難しく、結果的に選ばれた本が答えなのだとも言える。
「あ、井上荒野の短編集がある。これは、買いでしょう」
「綾瀬まる、わたしの本棚を見て、末娘がけっこう好きって言ってたな」
「小川洋子、このタイトルは反則だよね」
「そろそろ住野よる、読んでみようかな。図書館勤務の主人公って気になる」
じっくりと1時間ほどかけて、贅沢にも4冊、それも2冊は新刊を選んだ。こういう時間に飢えていたのだとあらためて知る。
本屋を出たときには、思いもよらなかったほど心晴れやかな気分になっていた。
そして家に帰り、貪るように1冊目を読んだ。
まるでこれまで砂漠にいて、オアシスを見つけ、すっかり忘れていた「水」というモノの存在を知ったかのような感覚だった。
乾いた身体で水を一気に飲むように、小説の文章が心に身体に沁み込んでくるのがわかったのだった。
その日のうちに読み終えた、井上荒野の『赤へ』。
今読んでいる綾瀬まるの短編集『くちなし』。
タイトルに魅かれた小川洋子と堀江敏幸の共作『あとは切手を、一枚貼るだけ』。
青春物は苦手で手を出さなかった住野よるだけど、読んでみようかなと気持ちが動いた『麦本三歩の好きなもの』。しばらく楽しめそう。
随筆屋。
Webライター。
1962年東京生まれ。
2000年に山梨県北杜市に移住。
2012年から随筆をかき始める。
妻であり、母であり、主婦であること、ひとりの人であることを大切にし、毎日のなかにある些細な出来事に、様々な方向から光をあて、言葉を紡いでいきたいと思っています。
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