ミラノに着いた翌朝、レオナルド・ダ・ヴィンチの『最後の晩餐』を観に出かけた。ミラノ中央駅から地下鉄に乗り10分ほどのカドルナ駅で下車。壁画が描かれた旧ドメニコ派修道院の食堂に向かう。10時から待って予約ぴったりの15分に通された。予約した30人ずつを通路となるガラス張りの個室に入れ、ガラスのドアを閉鎖する。さらに次のガラス張りの部屋に入りドアを閉める。確立されたセキュリティに感心させられた。そしてようやく食堂に通され、壁画『最後の晩餐』と対面した。
まぶしい、というのが第一印象だった。薄暗がりのなかで見た決して明るいともカラフルだとも言えない絵なのに。そして次に立体感に、圧倒された。背景に描かれた3つの窓が、立体感を際立たせるとともに、キリストの偉大さを強調する後光の役目をしているという。まぶしいと感じたのは後光の代わりに描かれた窓から差す光のせいだったのだろう。
「12弟子のなかの1人がわたしを裏切る」とのキリストの発言を聞いた瞬間の弟子たちの表情や仕草から見てとれる感情を、日本語のオーディオガイドが説明していく。ひとりひとりをじっと見つめるうち、緻密な計算と人の心の奥底を想像する力がなくては、描くことができなかったであろうことだけは判った。
ダ・ヴィンチは水面に広がる波紋を見て、光と影が織り成す光景、音の広がり、時間の流れの不思議などを知りたいと強く思い、あらゆる面からの探求を始めていったという。判らないことも、こういうものなのだとすごしている自らの日々を思った。天才というのは探求心を持ち続ける人のことを言うのかも知れない。
ところで飲み会などでよく、死ぬ前に食べるとしたら何を食べたいかという話題になる。今まで聞いたなかで最もポピュラーなのが「炊き立ての白いご飯」「おむすび」だ。日本人の食の原点なのだろう。そういう意味では『最後の晩餐』のパンとワインにも似ている。
「そうだなあ。迷うなあ。辛葱ラーメンもいいなあ」
わたしは、その都度答えが変わってしまう。凡人なのである。
我先にと前へと進むような人は、いませんでした。
背景の3つに分かれた窓の明るさが、後光を描くことなく人に近くあるキリストの偉大さを描いているそうです。
向かって左端にいるのが、銀貨30枚でキリストを裏切ったと言われるユダ。
最後の晩餐ではないけれど、そのあとのランチ。
中央駅近くのピッツェリア『Il Tavolino(イル・タヴォリーノ)』で。
「ここで飲んで、食べて、楽しいクリスマスをすごそう」
アンチョビ&モツァレラ&オレガノのピザと、生ハムピザ。
装飾もシンプルなカプチーノ。さりげなさがかっこいいです。
その夜にはeasyjetで、シチリアはパレルモに飛びました。
ヨーロッパを代表するLCC(格安航空)。飛行機まで歩いて乗りました。
随筆屋。
Webライター。
1962年東京生まれ。
2000年に山梨県北杜市に移住。
2012年から随筆をかき始める。
妻であり、母であり、主婦であること、ひとりの人であることを大切にし、毎日のなかにある些細な出来事に、様々な方向から光をあて、言葉を紡いでいきたいと思っています。
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