ナポリは、2日目も土砂降りだった。
それでも、ナポリを見渡せる丘へフニコラーレ(ケーブルカー)に乗り「サンテルモ城」へ向かう。ナポリをパノラマで見渡せるビュースポットのはずが、傘を差し雨具を着て、室内に入れば傘をたたみ、また傘を差す繰り返し。城を、観光を楽しむというより、ただただ疲れた。
「これじゃ、死ぬに死ねないね」
ゲーテが感嘆した「ナポリを見て死ね」の風景は、雨と霧にはばまれていた。
「サンテルモ城」は、八方を見渡せる守りの堅さを誇る城で星形に造られていた。頂上ではその星形を歩いて回ることができ、おもしろかった。
それでも、モチベーションは上がらない。
サンタルチア方面に行こうという計画もやめにして、その辺でランチして帰ろうということになる。居心地のいいオステリアでパスタを食べ、帰路についた。
帰りに、薬局に寄った。
ローマに、石鹸を忘れたのである。
店内に入るなり、男性スタッフが夫のザックを見て言った。
「てるてる坊主?」
「おーっ、イエス」と、夫。
利尻礼文を旅したときにもらった、てるてる坊主だ。
「アイム マンガリーダー」と、彼。
日本の漫画を読むそうだ。だから知っているのだという。
「それにしても、ひどい雨だね」
などと言葉を交わし、石鹸を買い、宿に向かった。
あまりに疲れていたので、ベッドに倒れこみ眠っていると夫に起こされた。
「見て。晴れてる」
「うそ」
窓の外には青空が広がり、夫のザックのてるてる坊主は変わらず笑っていた。
異国の地でふいに名前を呼ばれ、彼は目を覚ましたのだ。
土砂降りでしたが、がんばって「サンテルモ城」へ。
「ナポリを見て死ね」の絶景が広がるはずでしたが。
「サンテルモ城」のなかです。かなり歩きました。
もうサンタルチア方面には行かなくてもいいかと、雨にあきらめて山の上でランチすることにしました。
黒板には、イタリアの地図とワインの名前がありました。お洒落!
紙袋にパンを入れてこうやって出すのが、流行っているみたい。
天然酵母の塩と酸味の利いたパンでした。
熱いパスタに、ホッとしました。身体が冷えていたんだなあ。
雨だから、デザート&エスプレッソでのんびり。カプチーノはないそうです。
フニコラーレ(ケーブルカー)で、来た道を引き返しました。
てるてる坊主くん、いつなんどきも笑っています。
宿から見上げた、雨上がりの空。
随筆屋。
Webライター。
1962年東京生まれ。
2000年に山梨県北杜市に移住。
2012年から随筆をかき始める。
妻であり、母であり、主婦であること、ひとりの人であることを大切にし、毎日のなかにある些細な出来事に、様々な方向から光をあて、言葉を紡いでいきたいと思っています。
*このサイトの文章および写真を、無断で使用することを禁じます。
管理人が承認するまで画面には反映されません。