「パレルモで、おススメの魚は何ですか?」
夫が訊くと、タクシー運転手の女性は、当然という口調で言った。
「ソードフィッシュ!」
「ソウルフィッシュ?ソウルフードみたいなものかな」と、わたし。
「違うよ。ソード。刀だよ」と、夫。
「刀?秋刀魚とか、太刀魚とか?」「うーん」
それから、わたしたちのソードフィッシュ探しは始まった。
1日目の夜には、トマト味の煮魚アクアパッツァを食べた。海の味わいが濃くシチリアの魚料理を楽しんだが、魚は金目鯛だった。
「これがソウルフードだって言われたら、納得するけど」
「ソードフィッシュ。刀ではないよね」
どんな魚だろうと言いながら2日目に歩いた食材市バッラロ市場で、魚屋の店先で話し込んでいた夫が、喜び勇んで飛んできた。
「ソードフィッシュ、わかったよ。スパーダだ!」
どれどれと見に行くと、魚屋の男性が店の裏へ来るようにと手招きしている。人なつっこい笑顔だ。一緒に写真を撮ろうと言っているらしく、撮らせてもらうことにした。彼のその手には、スパーダの刀の先が握られている。サメのように鼻先が尖った大きなメカジキだった。
その夜さっそく、スパーダを食べた。
焼いたメカジキは、やはり濃い海の味がした。
最初に聞き違いをしたからか「ソウルフード」という言葉が頭から消えない。それもただの郷土料理と言うよりも、その土地の人たちの心と身体を作ってきた大切な食べ物というイメージだ。魚屋の彼の笑顔や、タクシー運転手の彼女の自慢げな口調を思い出す。ソードフィッシュは、彼らにとって大切なソウルフードと言っても間違いではないだろう。
これは1日目に食べたアクアパッツァ。金目鯛でした。
『Casa del brodo(カーサ・デル・ブロード)』老舗です。
2日目に歩いたバッラロ市場です。茄子がきれいに並んでいました。
こんなにたくさんのアーティチョークが並ぶさまは日本では見られない光景。
ブロッコリーも、大きくて色が薄い。
肉屋さんの店頭も、迫力があります。
「スパーダ!」と、夫に教えてくれた魚屋さんの彼です。
これこれ。確かに刀!メカジキでした。
その夜食べた、スパーダのロール焼き。
『アル・フォンダコ・デル・コンテ』は、入り組んだ路地の奥にありました。
3日目のランチは、スパーダとアーティチョークのパスタ。
『OSTERIA MERCEDE(オステリア・メルセデ)』マッシモ劇場近く。
メニューをかいた黒板にも、スパーダへの愛が溢れていました。
随筆屋。
Webライター。
1962年東京生まれ。
2000年に山梨県北杜市に移住。
2012年から随筆をかき始める。
妻であり、母であり、主婦であること、ひとりの人であることを大切にし、毎日のなかにある些細な出来事に、様々な方向から光をあて、言葉を紡いでいきたいと思っています。
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