そもそも「そうだ、安曇野行こう」の目的は、酒だった。
長野の銘酒『佐久乃花』を「買いに行こう」と、夫が言うか言わないうちに「安曇野なら、蕎麦だね」と、わたしが言った。
「じゃ、蕎麦屋はきみが調べて」と、夫。
「合点承知の助!」と、わたし。
検索して、趣とこだわりのある美味しそうな蕎麦屋をピックアップした。
とはいうものの、方向音痴オリンピック金メダリスト有力候補(?)のわたし。蕎麦屋と酒屋と福寿草まつりの位置が、どうひっくり返してみてもわからない。
そして、方向音痴オリンピック出場のための極意を伝授すれば、「わからない」と思ったところで、常にこうつぶやかなくてはいけない。
「まっ、いいか」
迷いの森の扉を開ける魔法の呪文である。
そんなふうにして、ナビ頼りで安曇野へ向かった。
夫は、方向音痴どころか地図マニアと言ってもいいほど地図が読める男だ。しかしナビのある日常に慣れ、そもそも行ったことのある酒屋の位置を前もって調べておこうなどという「ずく」もない。
(甲州弁で「ずくなし」は「怠け者」の意)
まあ、ふたりだから気も張らず、のんびり行こうと、ゆるゆると出かけたのだ。
「まだ着かないね」「けっこう遠いね」と言いながらほどなくして到着した福寿草の群生地から、しかしまたもや、「30分ってわりと長いね」「まだまだ向こうなんだ」と言いつつ蕎麦屋へと向かった。それでもナビはエライ。きちんと目的の蕎麦屋に着いた。安曇野の山葵を自分でおろし、庭で採れたというふきのとうの天麩羅といただく蕎麦は、蕎麦処ならでは。蕎麦の旨みが濃く、堪能した。
そこから、ようやく酒屋への道を調べようということになる。
「そもそも今日、営業してるの?」と、わたし。
「調べてない。やってなかったら帰ろうか」と、どこまでものんきに夫。
「遠いかな?」「面倒くさくなってきたね」などと言いつつ、スマホとガラホでそれぞれ調べる。目的は酒だったんじゃなかったのかとツッコみたくなってきたところに、夫が声を上げた。
「おお! 酒屋、すぐ近くだ」
「うそ。そんな上手い話があるわけないじゃん」
ナビに酒屋の住所を入れ、わたしが運転する。
するすると到着した酒屋には、夢のようにずらりと『佐久乃花』が並んでいた。
わたしの方向音痴オリンピック金メダルの夢(?)は、偶然とか、たまたまとか、思いがけずとか、図らずもとか、巡り合わせとか、ナビゲーションシステムとか、そういったものに阻まれたのだった。
だが、こうも考える。こと酒に関しては普段の行いの良いわたしたちだからこそ、酒の神バッカスに特別に歓迎され、導いていただいたのかも知れないと。
国道158号線沿いにある「深澤酒店」です。
日本酒のことならお任せあれという感じですが、ワインもこだわりの品揃え。
渋めのラベルの『佐久の花』を2本購入しました。
さて。安曇野に行ったら、蕎麦を食べなくっちゃ。
「庭園そば処みさと」です。
随筆屋。
Webライター。
1962年東京生まれ。
2000年に山梨県北杜市に移住。
2012年から随筆をかき始める。
妻であり、母であり、主婦であること、ひとりの人であることを大切にし、毎日のなかにある些細な出来事に、様々な方向から光をあて、言葉を紡いでいきたいと思っています。
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