朝方、電車の音が聞こえて、目が覚めた。
だがすぐに、錯覚だと気づく。なぜなら、電車の通っていない場所にいたから。
家ではないどこか、たとえば東京や夫の実家がある神戸で眠ると、早朝に、電車の音で目覚めることが多い。
それはたぶん、電車の通っていない場所で暮らしているからだろう。どこまでも続くはずの線路は、明野町には敷かれていない。
「だけどああ、ここにも電車は通ってないんだった」
似ていることを数えれば、コンビニも本屋もない。ファミレスもマックもない。
連休を、会社の保養施設がある初島で過ごした。
夫とふたり、今年もお疲れさまでした、やれやれ。と、まあ忘年会だ。
初島は、熱海から30分ほど船に乗ったところに浮かぶ小さな島である。島の地図には、ぐるりと一周しても1時間ほどだとかかれている。
「初島、何回目になるんだろうね」
「10回に、なるかな?」
20年以上前には、幼かった子どもたち3人を連れて、小さな民宿に泊まり、海で遊んだ。畳の上に置かれたポットをハイハイしていた末娘が倒し、両足にひどい火傷をしたときには、宿のご主人が島じゅうの人に声をかけて氷を集め、冷やしてくれた。おかげで大事に至らずに済んだ、という苦い思い出もある。
その後、縁あって保養施設として契約し、それからはただただのんびりしに訪れている。ホッとして、リフレッシュできる場所なのだ。
海に囲まれた初島は、けれど、山に囲まれた明野と、どこか似ているのかも知れない。海を吹く風を電車の音と錯覚したのは、自分がよく知っている音を当てはめようとする心理なのだろう。そう言えば、明野に越してきたとき、よく風の音を車が来たのかと勘違いして振り返ったっけ。
今はもう、山で吹く風は車の音には聞こえない。いつの間にか、しっかり聴き分けられるようになっていることに気づき、ひとり笑った。
船には、人なつっこいカモメたちが群がって、島までついてきました。売店に売っている、かっぱえびせんが欲しいんです。
初島港です。高速船「イルドバカンスプレミア」の白が映えるなあ。
向こうに見える熱海の街の上には、富士山が頭を出していました。
港近くの小料理屋で、鯵の生き造り。コリコリした食感でした。新鮮だもんね。
初島のひとつしかない小中学校一緒の校舎。ログハウス風です。
この卒業制作に、島の子どもたちの生きる力を感じました。
阿久悠と三木たかしコラボの校歌です。『地球の丸さを知る子どもたち』というタイトルがついています。
♩~ 視界は はるか 360度 地球の丸さを知る子どもたち ~♩
初島の灯台からは、360度、海が見渡せます。
サンセット。カメラを出しているうちに、沈んでしまいました。つるべ落とし。
随筆屋。
Webライター。
1962年東京生まれ。
2000年に山梨県北杜市に移住。
2012年から随筆をかき始める。
妻であり、母であり、主婦であること、ひとりの人であることを大切にし、毎日のなかにある些細な出来事に、様々な方向から光をあて、言葉を紡いでいきたいと思っています。
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