連休に、会社の保養施設がある箱根を、夫婦で訪れた。
社長である夫と経理担当のわたし。今年もなんとかやってこられたね、という忘年会のようなものだ。
狙ったわけではなかったが、箱根は紅葉シーズンまっただなか。ものすごい人だった。登山電車など東京の通勤ラッシュ並みの混みようだ。
のんびりしに来ただけなのだが、それでもやはり出かけようということになる。しかし、箱根には何度も来ている。ここもあそこももう行ったねという話になり、結局ホテル近くの渓谷沿いの遊歩道を散策した。
「わたし、今年紅葉いっぱい見た気がする。カンマンボロンに、もみじ祭りウォーク」
「昇仙峡も、ひとりで行ってたもんね」
赤く染まったモミジを目の端で狩りながら、歩く。
「こういう山道的な道も、かなり歩いた気がする」
遊歩道は自然そのまま感たっぷりで、すぐに少しだけ整備された獣道という風情を醸し出していく。通りにあれだけいた人は、ひとりもいない。穴場といえば穴場だ。
誰もいない空間というのは、それだけで「密室」に似た空気が流れる。
「そこ、滑るから気をつけて」という夫に、「ツル!」とわざわざ擬音で答え、滑ったふりをする。その後もしつこく「ツル!」を繰り返した。夫婦だからこそ許される、くだらないギャグだ。
しかし再度「ツル!」っと口にした瞬間、まえから歩いてくる家族連れが見えた。夫婦と小学校高学年くらいの女の子だ。
「あ……、こんにちは」
突然よそ行きの声になり、挨拶するわたし。
「こんにちは」
あちらもよそ行きの声で、返してくる。
しかし女の子は、にこりともせず黙々と歩いていく。思春期に入りかけているのだろう。
「軽蔑された」
3人が通り過ぎ、だいぶ離れてから、つぶやく。
「だいじょうぶ。変なおばさんだなあって思っただけだよ」
「それ、同じことだから」
誰もいないからといって、密室だと思っちゃいけない。油断は禁物だ。だが1時間ほど歩いた遊歩道でその後すれ違ったのは、若いカップルひと組だけだった。
遊歩道からバス通りに出て、湯本までバスに乗り、蕎麦屋でビールを飲んだ。スマホの万歩計を見ると1万歩とちょっと歩いている。きれいな紅葉を見た後のビールが美味い。
ギャグが滑ったくらいはまあ、自分の器だと真摯に受けとめよう。
この秋は、渓谷沿いの遊歩道をよく歩いたなあ。ふたたび(笑)『堂が島渓谷遊歩道』っていうんですね。この辺り、たぶん猪だと思われる足跡がいっぱいありました。
湿った空気を感じながら歩くと、苔やこういう水分が好きそうな植物がたくさん見られました。
おお~ナイアガラ! とはしゃぐ(笑)
ハイキングというには、きつい登り。夫の後ろ姿です。
バスで湯本まで行って、入ったお蕎麦屋さん『暁庵』です。
コシのあるお蕎麦と辛目の蕎麦つゆ、焼味噌と、そしてビール。
帰りは満員の登山電車で、『宮ノ下駅』まで帰りました。
ホテルから見える、この山の裾野辺りを歩いていたようです。
随筆屋。
Webライター。
1962年東京生まれ。
2000年に山梨県北杜市に移住。
2012年から随筆をかき始める。
妻であり、母であり、主婦であること、ひとりの人であることを大切にし、毎日のなかにある些細な出来事に、様々な方向から光をあて、言葉を紡いでいきたいと思っています。
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