図書館で手に取った『夏井いつきの「時鳥」の歳時記』を、楽しんでいる。
カラー写真をたっぷりと使った贅沢な俳句本だ。
季語は、「ホトトギス」のみ。ひとつの季語に焦点を当てたこの「歳時記」は、春は「花」、秋は「月」、冬は「雪」が刊行されている。
谺して山ほととぎすほしいまゝ 杉田久女
たとえば巻頭のこの句には、見開きで木の枝にとまるホトトギスの大きな写真が添えられている。
そしてラストの「名句鑑賞」のコーナーで、夏井いつきが鑑賞する。
ケッキョとほととぎすが声を放つ。一筋の谺(こだま)が返る。緑滴る初夏の山。緑に紛れてまた鳥声があがる。やがて無数に鳴き交わすほととぎすたち。山を繚乱に。ほしいままに。
力のある句だなあと、俳句初心者のわたしでも、ハッとさせられる句だ。
そして、この本を開いていちばん驚いたのは、「ホトトギス」に当てた漢字や名が多いこと。
「時鳥」は、夏を告げる鳥の意味。
万葉集では「黄昏鳥(たそがれどり)」「恋し鳥(こいしどり)」など恋しい人を偲ぶ呼び名で、古今和歌集では「冥途の鳥(めいどのとり)」「死出の田長(しでのたおさ)」など亡き人を偲ぶ名で呼ぶ傾向があったという。
「杜宇(ほととぎすorとう)」は、中国の望帝の名で、懐古の情を呼び起こす鳥。「不如帰(ほととぎすorふじょき)」も杜宇伝説の名残で、中国語で「ブルグィ(帰りたい)」と聞こえることからきたそうだ。
正岡子規の「子規」も「ほととぎす」と読む。正岡子規は、喀血する自分と「鳴いて血を吐く」ホトトギスを重ねたと伝えられている。ホトトギスの激しい鳴き方から「血を吐く」イメージが広がったらしい。
ほかにも数え切れない名が、載っていた。
それだけ、昔から身近な野鳥ということなのだろう。
ほととぎす何もなき野の門構 野沢凡兆
此より野である。ただ広がる野にも、そんな空間の門構えのようなものがある。かつては人家もあったのだろうか。ほととぎすは過去も現在も知り、今もこの野を鳴き交わしている。
ちょうど今、ホトトギスが鳴く季節。
早朝、その声に目覚めることも多い。そんなとき、パラパラとこの本を捲っている。
最近、図書館によく行くようになりました。
この歳時記の特徴のひとつは、応募を募り、秀作を載せているところ。
やっぱり今この季節の「時鳥」を、最初に開いてしまいます。あとは返却して、その季節ごとに借りようかな。『365日季語手帖』2023年度版は、購入してちょくちょく開いています。
随筆屋。
Webライター。
1962年東京生まれ。
2000年に山梨県北杜市に移住。
2012年から随筆をかき始める。
妻であり、母であり、主婦であること、ひとりの人であることを大切にし、毎日のなかにある些細な出来事に、様々な方向から光をあて、言葉を紡いでいきたいと思っています。
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