「どうも。右手くんです」「おひさです。左手くんです」
「ふたり合わせて、両手!」「わわわ、おもしろくなーい!」
右手くんが、frozenshoulder(五十肩)を患って、早3年が経った。1年ほどしてステロイド注射の存在を知り、4度の注射ですっかり治ったが、それ以来右手くんと左手くんの会話が聞こえるようになってしまった。彼らは痛みについて、たがいの立場について、トリガーポイントについて、これまでもとりとめもなくおしゃべりしてきたが、痛みがひいてからはごぶさたぎみだ。
「ところで右手くん。手が記憶するって話、知ってる?」
「もちろんだよ。何しろ僕だって手なんだから。ピアノを弾いたり、ボールを投げたり、包丁さばきもそうだね。手って頭いいんだよね、じつは」
「そうそう。漢字テストのときなんかも、文字を見てるだけじゃ覚えるのは至難の業だけど、僕ら手がペンを持ってかくことで覚えられるんだもんね」
「目の記憶が1なら耳の記憶は4っていうけど、それって4倍くらい記憶に残りやすいってことでしょ。手は10倍だったりして」
「うーん。それはわかんないけど、人間は二足歩行になってから手を使う分の脳のスペースがずいぶん大きくなったんだって。だから記憶のスペースにも余裕があるんじゃないかな」
「手って、すごーい!」「僕たちって、すごーい!」
ふたり(?)が盛り上がっているのは、薬局での会話がもとになっている。
「毎日お顔のマッサージをするのって、けっこう面倒ですよね」と、店員さん。
「そうなんですよ! できません、できません」
と、面倒くさがりオリンピック金メダル有力候補であるわたし。
「でもね、毎日クリームを塗るときに顎から頬に向かって塗るだけでも、リフトアップ効果ずいぶん違うんですよ。で、それを始めるときに」
「はい?」
「3日くらいは、鏡のなかの手をじっと見ながらやるんです。そうすると、手が覚えて気づかないうちに習慣になっちゃうんですよ」
「手が覚えるんですか?」「はい。手が覚えるんです」
手が覚える。初めて聞く言葉だった。
実際やってみると、確かにただクリームを塗るその行為が動く手たちを見ていたことでイメージが固定していく感覚があった。
右手くんと左手くんの言う通り、脳のなかで大きなスペースを占める手と見ることのタイアップで、しっかり記憶することができたようだ。
リフトアップ効果がずいぶん違うかどうかは、まあ、さて置いて。
ネイル更新。薄めのブラウン中心の落ち着いた雰囲気にしてもらいました。
右手くんと左手くん、すましてるなあ。
この冬気に入ってよく着ているセーターが、この2枚。
ネイルは、この色に合わせて選んでみました。
随筆屋。
Webライター。
1962年東京生まれ。
2000年に山梨県北杜市に移住。
2012年から随筆をかき始める。
妻であり、母であり、主婦であること、ひとりの人であることを大切にし、毎日のなかにある些細な出来事に、様々な方向から光をあて、言葉を紡いでいきたいと思っています。
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