新しい道が、できていた。
北杜市を北に上る用事があり、車を走らせていて、
「うわっ!」
ひとり車のなかで、歓声を上げる。
いつもの道が、いきなり知らない道に変わっていたのだ。どこに出るんだろう、どうなるんだろうと不安に思いながらもアクセルを踏む。螺旋階段を上っているように、カーブの先は見えない。程なくして、知っている場所に出た。何度も足を運び顔見知りになっている家具工房『我楽舎』の前だった。
「道、できたんですねえ」と、立ち寄ってわたし。
「十年くらい前から工事してたよねえ」と、ちょっと呆れた様子で店主。
十年という数字は定かではないが、確かにずっとずっと工事中だった。
「いつになったら、できるのかねえ」「行政の都合かな」
通るたびに、そんな話をしていた。だが話しながらわたしは、何かここだけ時間が止まっているかのような感覚にもなっていた。わたしのなかでここは「ずっとできあがらない時間が止まった道」だったのだ。
だからそこを走ることになったとき、突然の出来事に見舞われたように思えた。これまで止まっていた時間が動き出したようなその感覚は、バックしているときに隣りの車が動き出し、どちらが動いているのか判らなくなったような危うい感じにも似ていた。
通り過ぎて、考える。そんなわけはないのだと。道は人が作っている。ただ何かの都合で工事が頓挫していただけなのだ。そう思いながらも、時空を超える場所がひとつ消えていったような小さな穴が胸に広がる。
「もとの道の方が、素朴でよかったっていう人もいますねえ」
我楽舎の店主が、ちょっと淋しそうに言った。
新しい道は、きれいで広くカーブが緩く、とても走りやすい。
家具工房『我楽舎』さん。この道は、末娘の高校に行くときによく使いました。
帰り道に写真を撮りました。緩いカーブの向こうに紅葉が見えました。
くるくるくるくる。螺旋を回りながら走っている気分になりました。
見下ろすと、これまで使っていた道から枝分かれした道が見えました。
雲の上からいているような、不思議な感じがしました。
随筆屋。
Webライター。
1962年東京生まれ。
2000年に山梨県北杜市に移住。
2012年から随筆をかき始める。
妻であり、母であり、主婦であること、ひとりの人であることを大切にし、毎日のなかにある些細な出来事に、様々な方向から光をあて、言葉を紡いでいきたいと思っています。
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