八ヶ岳の定点観測地点で、スノーフレークが咲き始めた。
家から徒歩3~4分のその場所は、八ヶ岳がきれいに見えるスポットで、だがそこでカメラを向ける人を見たことはない。地もとの人は「山なん、観ん」と言う。
そのスポットの道沿い、田んぼの畦に、何年か前からスノーフレークが咲くようになった。田んぼの持ち主さんが植えたのだろう。
清楚で可愛らしくて、大好きな花だ。
「今年も、咲いたね」
自分の持ち物でもないのに、そう声をかけてしまう。
咲き始めたスノーフレークを、今年は特に感慨深く眺めた。
昨年10月に肺の手術をした父の病室に、スノーフレークが咲いていた。
と言っても、見舞いの花などではない。季節も違う。病室のナンバープレートの下に、それぞれ違う花の写真がわりと大きくデザインされていて、父の部屋の花がスノーフレークだったというだけだ。
お年寄りの患者さんが多い病院なのに、洒落ているなあと感心すると同時に、そこに凛と咲く白く生命力あふれるスノーフレークを見て、思ったのだ。
「ああ、父は、きっとだいじょうぶだ」
父の手術はぶじ終わり、通院は続けているものの、今は自ら料理をし、料理の苦手な母とふたりで暮らしている。
家族が病気になると、人はいろいろなものに力づけられるものだ。そしてそういうことすら、普段の生活のなかでは想像することもない。
スノーフレークは、畦で透き通った白を雨粒に濡らし、ただ笑っていた。
きのうの朝、雨が上がったばかりです。
まだ、鈴なりというほどではありません。
ひとつずつ、静かに咲いています。
珍しく、見つめ合うように咲いている花たちもありました。
きのうの八ヶ岳は、雪雲のなか。
八ヶ岳の春は、まだ遠いようです。
随筆屋。
Webライター。
1962年東京生まれ。
2000年に山梨県北杜市に移住。
2012年から随筆をかき始める。
妻であり、母であり、主婦であること、ひとりの人であることを大切にし、毎日のなかにある些細な出来事に、様々な方向から光をあて、言葉を紡いでいきたいと思っています。
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