「らっきょって、カレーのとき以外にも食べるっけ?」
「酒の肴にも、いけるんじゃない?」
夫の言葉に返し、あれ? たしかあの小説に、と思い出す。
川上弘美の『センセイの鞄』の冒頭部分だったはずだ。
「何かと組み合わせた言葉だったはず。きんぴら蓮根、みたいな」
本を開くと、やはりあった。
センセイは背筋を反らせ気味にカウンターに座っていた。
「まぐろ納豆。蓮根のきんぴら。塩らっきょう」カウンターに座りざまにわたしが頼むのとほぼ同時に隣の背筋のご老体も、
「塩らっきょ。きんぴら蓮根。まぐろ納豆」と頼んだ。趣味の似たひとだと眺めると、向こうも眺めてきた。どこかでこの顔は、と迷っているうちに、センセイの方から、
「大町ツキコさんですね」と口を開いた。
一杯飲み屋のカウンターで、ふたりが出会うシーンである。
「塩らっきょだった。甘酢漬けとは違うね」
「沖縄料理だっけ?」
調べると、沖縄のらっきょは「島らっきょ」だ。こちらのらっきょより細長く、辛みが強いらしい。主に塩らっきょにするのだとか。
らっきょにも、いろいろある。
ふとした一瞬に、特別でも何でもない些細な瞬間に、大好きな小説のワンシーンを思い出すとうれしくなる。そして、想像も膨らむ。
『センセイの鞄』でツキコとセンセイが酒を酌み交わす「サトルさんの店」では、きっと、大きな瓶に塩らっきょを漬けているのだろう。
そしてわたしは、相変わらずツキコのように一杯飲み屋のカウンターで、ひとりゆるりと酒を飲むの女性に憧れている。
カレーの日に購入したらっきょの甘酢漬け。
20年以上前に購入した、川上弘美『センセイの鞄』です。
きのうの朝食です。
冷凍しておいたごまめの炊き込みご飯を解凍して。
白菜と豚バラ肉のくたくた煮。生姜をたっぷり入れて煮ました。
今シーズンお初の苺は、静岡の紅ほっぺ。
随筆屋。
Webライター。
1962年東京生まれ。
2000年に山梨県北杜市に移住。
2012年から随筆をかき始める。
妻であり、母であり、主婦であること、ひとりの人であることを大切にし、毎日のなかにある些細な出来事に、様々な方向から光をあて、言葉を紡いでいきたいと思っています。
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