絵を描くというのは、途方もないことだ。
じっと蟻を見つめていたモリが、つぶやく。
最近気づいたんだが、蟻っていうのは、左の2番目の肢から歩きだすんだね。
映画『モリのいる場所』には、そんなモノを見つめ続けることで描きだす画家モリの日常が描かれていた。
〈story〉
昭和49年の東京。東京の小さな庭を30年間探検し、それを絵に描き続けた実在の画家熊谷守一と妻、秀子の1日を切り取って描いている。日々来客万来。にぎやかだ。しかし、近隣にマンション建設、庭が危ういという不穏な空気も流れている。監督・脚本、沖田修一。
〈cast〉
熊谷守一【山崎努】94歳、実在した日本画家。通称モリ。質素な暮らしを好み「画壇の仙人」の異名を持つ。97歳で亡くなるまで描き続けていた。
熊谷秀子【樹木希林】76歳、52年連れ添ったモリの妻。
加瀬亮、吉村界人、光石研、吹越満、青木崇高、池谷のぶえ、きたろう、三上博史、ほか。
モリは、映画終盤、ある人に誘われる。
陽が当たらなくなるこの狭い庭から外へ出ようと。その答えが耳に残った。
この庭は、わたしには広すぎます。ここでじゅうぶん。
そして付け足すように、自分がいなくなったら、と言う。
母ちゃんが疲れちまいますから。それがいちばん、困る。
他人が見れば、30年も外へ出ず留まっているには狭いと思う場所でも、暮らしているモリや秀子にとっては、見知らぬところ、手の届かないところが山ほどもある庭なのだと、ハッとした。
先日観た『半世界』とも通じる。
広い世界を渡り歩くだけが冒険ではなく、いつもの暮らし、日常のなかにも知らないこと、冒険できる世界が広がっていて、突き詰めていけば狭い庭もいくらでも広がっていく。
「母ちゃんが疲れるのがいちばん困る」のも、多くの人とのかかわりのなかで、妻を、妻との暮らしを狭い庭を広げていくようにして突き詰め、大切にしているからだ。
自由に外へ出かけての冒険が難しくなった今、暮らしているこの場所、日常を静かに見つめたくなる映画だった。
樹木希林の笑顔がいいですね。生前の熊谷夫婦のつつましい暮らし方に憧れた人も多かったとか。
蟻を見つめるモリ。
こんばんわ
「モリのいる場所」映画館で見ました。
さすがの、お二人のコンビ。ぴったりでしたね。
暮らし向きも、実につつましく、それでも笑いや来訪者が絶えず。
心地よい物語でした。
もう一度、見てみたくなりました。
随筆屋。
Webライター。
1962年東京生まれ。
2000年に山梨県北杜市に移住。
2012年から随筆をかき始める。
妻であり、母であり、主婦であること、ひとりの人であることを大切にし、毎日のなかにある些細な出来事に、様々な方向から光をあて、言葉を紡いでいきたいと思っています。
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