神戸から帰ってきた次の朝。
庭で体操していた夫が、早々に引き揚げてきた。
「カラスが2羽、低空飛行して威嚇してきた」
「雛が生まれて、神経質になってるのかな」
庭に続く森の赤松に、カラスが巣をかけているのは知っていた。
そんな話をして洗濯物を干し、庭に出てみる。
庭から森へと足を踏み入れた途端、戦慄が走った。
いつも20mほど上空から降るように聞こえてくる独特な鳴き声が、足もとから、それも極近くから地面を這うように聞こえてきた。
「たいへん! 雛が落ちてる」
親が、隠したのだろうか。薪の雨避けに掛けてあるブルーシートのなかで、まだ産毛の残るカラスの雛が鳴いていたのである。
慌てて家に駆け込むわたしを追いかけるように、2羽のカラスが大声でがなり立て急降下してくる。
襲われはしなかったものの、困ったことになった。
「これじゃ、庭に出られないじゃん」
「今日、草刈りしようと思ってたのに」
カラスの親たちも、困っているようだ。そのうち、雛はちょこちょこと森を歩き出した。
翌朝。
森を見回すが、雛はいない。いないが、声が聞こえる。雛の鳴き声は舌っ足らずで甘えたような親鳥たちとはまるで違う声なので、すぐにわかる。
その声が、遠い。
「ぶじ、巣立ったのか」
けれど雛はちょこちょこと我が家の垣根の下を移動し、家を隔てて反対側、玄関と駐車場の横、東の森へと向かっていた。
脳内に正常性バイアスが働き、望んでいた巣立ちだと思いたかったらしいが、雛はまだ地面を這っていた。
夫が整備している西の森は、開けていて明るくそれだけに外敵に見つかりやすい。人の手が入っていないうっそうとした東の森には小動物は棲んでいるかもしれないが、そっちの方が安全だと考えたのかもしれない。親の指示だろうか。
きのうの夕方も、親子3羽で東の森で鳴いていた。会話のように、代わる代わる鳴き合っている。
駐車場で車に乗るまで、ポストに郵便を取りに行って戻るまでの30秒、その声が威嚇しているように聞こえて怖い。
他人(他鳥)の子だが、ああ、巣立ちが待ち遠しい。
これは2019年10月、ツリークライマーさんに赤松を何本か切ってもらう前の写真です。高さは、30メートルほどあるでしょうか。
これが今、カラスに巣をかけられている赤松。
庭では、ヤマボウシが咲いています。上を向いて咲くので、2階のベランダからしか見えません。
今年は花が少なめだけど、可愛い。
久しぶりに『トリノトリビア』を開いてみました。
☆シミルボンサイトで連載中【鳥雑学がおもしろい!『トリノトリビア』と野鳥たち】
都会のカラスと田舎のカラスが、いるんだね。この辺りを飛んでいるのは、田舎のカラス「ハシボソガラス」だと思います。
オニグルミを割って食べるハシボソガラスの姿は、秋の北日本の風物詩です。
近隣にはオニグルミの木もいっぱあるし、たしかに、秋には目にする風景です。車に轢かせて割ったりするんだよね。
実際に攻撃せずに、嫌がらせをして追い払う行動を「モビング(擬攻撃)」というそうです。わたしたちにしてきた威嚇も、これなのかな。
チビの声は、はっきりと聴きとれます。甘えたような声です。
カラスも人間も遊びが大好きです。時間の浪費にも見える姿は、来るべき変化の時代を生き抜く勇者の姿かもしれません。
ページオープナーのタコよん、大活躍!
随筆屋。
Webライター。
1962年東京生まれ。
2000年に山梨県北杜市に移住。
2012年から随筆をかき始める。
妻であり、母であり、主婦であること、ひとりの人であることを大切にし、毎日のなかにある些細な出来事に、様々な方向から光をあて、言葉を紡いでいきたいと思っています。
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