一昨日、八ヶ岳に雲がかかっていた。
冬、「八ヶ岳おろし」と呼ばれる木枯らし、強い北風を起こす雲だ。
越してきた頃、山がきれいだと見ていると、地元の人に言われた。
「山なん、いっさら見んずら」
山など全然見ない、という甲州弁だ。そして、こうも言った。
「雲がかかりゃあ、八ヶ岳おろしが吹くっちゅうこんだ」
八ヶ岳おろしは強風だ。山に雪が積もれば、雪と冷気も運んでくる。それを知るためにだけ山を見るということらしい。
八ヶ岳にかかった雲も、木枯らしもまだ本番ではない。彼らが活躍する季節がやってくるのは、これからだ。
その冬の始まりを予感させる雲を見て、思った。
「強い北風を起こすエネルギーが、あのなかにあるんだよなあ」
テレビで、イタリアのオペラ歌手パオロ・ファナーレのインタビューを聞き、ちょうどエネルギーについて考えていたのだ。
「リサイタルでは、楽譜通りに歌うのではなく、ひとりの人間として発することができるエネルギーを届けたいと思い、歌っている」
彼は、言っていた。そしてさらに、こう話した。
「世界中にあるエネルギーには、ポジティブなものとネガティブなものがあって、悲観的なときにはネガティブな方へと引き寄せられていく。けれど、100%の暗闇はない。真っ暗な部屋のなかにいても、自分の瞳は小さな点だとしても光っているのだから。自分のなかにある光を、エネルギーを発すれば、きっと暗闇から抜け出せると、わたしは思っている」
「自分のなかにある光を、エネルギーを発する」
この言葉に、とても魅かれた。
八ヶ岳おろしを吹かせるような強い力と比べることはできない。それでも、自分もまた光となるエネルギーを持っているのだと、空の青が瞳に映るが如くごく自然に感じることができた。そして、思った。たぶん人が秘めるエネルギーは、温かく体温を伴っているはずだと。
八ヶ岳は、雲たちと挨拶を交わしているかのようです。
アップにすると、こんな感じ。雲の影がくっきりと写っています。
電柱の影が、八ヶ岳を指さしているみたいに見えました。
南アルプスの山々は、雲を背にただ八ヶ岳を眺めていました。
紺碧の空に雲と八ヶ岳、なんと美しい!
「八ヶ岳にかかった雲も木枯らしもまだ本番ではない」
「強い北風を起こすエネルギーがあのなかにあるんだよなあ」
と書かれているように、アップされた雲には爆発寸前のエネルギーを感じます。
改めて辞書を繰ってみたらエネルギーってドイツ語だったのですね。
短歌では山から吹き下ろす風を「颪」(おろし)という字で表すことがあります。漢字って面白いと思うことの一つです。電柱の影が八ヶ岳を指しているようなカメラアイにも感心します。
エッセイも素敵ですがさえさんのカメラによる映像にもいつも感動させられます。
yasukoさん
こんにちは~。
山にも空にも雲にも、ほんと大きなエネルギーを感じますよね。
ドイツ語だったとは知りませんでした。颪という字も、おもしろい!
周りの景色のひとつひとつに、たとえば電柱の影とかにハッとするときがあります。
アイディアというより、ハッとさせられるって感じなんです。
カメラは、まだまだですが、撮るのを楽しんでいます♩
随筆屋。
Webライター。
1962年東京生まれ。
2000年に山梨県北杜市に移住。
2012年から随筆をかき始める。
妻であり、母であり、主婦であること、ひとりの人であることを大切にし、毎日のなかにある些細な出来事に、様々な方向から光をあて、言葉を紡いでいきたいと思っています。
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