世界のスィーツ満載のミステリー。
舞台は、店主、葛井円(くずいまどか)がふらりと出かけた旅した先で出会ったスィーツや飲み物を出す「カフェ・ルーズ」で、主人公は、円のもと同僚、奈良瑛子。
三十七歳、独身、一人住まい、子供もいないし、恋人もいない。
ひとり生きる気ままさと、不安とを抱えて生きるOLだ。
スィーツごとに短編ミステリー仕立てになっていて、探偵役は円だ。
たとえば、1話目の北欧の「苺のスープ」は、結婚するという瑛子の同僚のあずさが、彼を連れてくる。カレー専門店をオープンする準備中だという。
「苺を煮てても、なにができるかはわからないですよね。ジャムかもしれないし、スープかもしれない。スープの存在なんて頭にない人かもしれない」
彼女はなにを言おうとしているのだろう。スプーンを止めて円を見返すと、彼女は声をひそめてた。
「紀谷ビル、一年後に老朽化で建て替えが決まっているそうです」
彼が店を出すと言っていたビルだった。あずさは、騙されているんじゃないか。瑛子は動き出す。
ドイツのツップフクーヘン「ロシア風チーズケーキ」
本格的な北京の月餅「月はどこに消えた?」
オーストリアのドボシュトルタ「幾層にもなった心」
ポルトガルのセラドゥーラ「おがくずのスィーツ」
香港で人気のお茶「鴛鴦茶(ユンヨンチャー)のように」
ウィーンのザッハトルテ「ホイップクリームの決意」
トルコの甘過ぎる焼き菓子「思い出のバクラヴァ」
コージーミステリーは、どれも紅茶をいただきながら楽しめる軽さとほんの少しの苦味で、いい感じだった。
ただひとつショックだったのは、2度旅したポルトガルのセラドゥーラに出会っていないこと。ガイドブックを4冊ひっくり返しても載っていないし、まったく知らなかったのだが、ポルトガル全土で親しまれているスィーツなのだそうだ。
そして、なつかしかったのが珈琲の名前。
「エスプレッソに泡立てたミルク。イタリア式だとカフェラテに近いものをグラスで出すんです。ポルトガルではガラオンって言うんですよ」
「へぇ……」
「ミルクの量が少なくて、エスプレッソと一対一だったらメイア・デ・レイテ、もっと少量をデミタスカップで飲むならガロット。淹れ方によって細かく名前が変わって、注文方法が変わるんです」
「それだけコーヒーが愛されてる国なんだ」
カフェで、わたしはメイア・デ・レイテを、夫はガラオンをオーダーしたのを思い出した。
表紙は苺のスープです。
ポルト、リベルダーデ広場のカフェ「グァラニ」で、ガラオンとメイア・デ・レイテ。
何度も開いたポルトガルのガイドブック。
随筆屋。
Webライター。
1962年東京生まれ。
2000年に山梨県北杜市に移住。
2012年から随筆をかき始める。
妻であり、母であり、主婦であること、ひとりの人であることを大切にし、毎日のなかにある些細な出来事に、様々な方向から光をあて、言葉を紡いでいきたいと思っています。
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