犬好きの方必読とおススメしたい『シャルロットの憂鬱』は、愛犬家のミステリー作家近藤史恵の連作短編集だ。
不妊治療がうまくいかず泣きはらす真澄に、夫の浩輔が言った。
「なあ、真澄。犬を飼わないか」
ふたりのもとへやって来たのは警察犬をリタイアしたメスのジャーマンシェパードだった。
穏やかな性格でしつけの行き届いた、けれど根っからの悪戯好きで臆病でもあるシャルロットは、しかし異変に気づいたときだけは猛烈に吠える。
一話目の表題作では、そのシャルロットが空き巣が入ったというのに吠えなかったのである。いったいどういうことなのか?
ミステリー作家ならでは。どの話も、コージーミステリーに仕立ててある。さしずめ、ホームズは浩輔で、ワトソンは真澄といったところ。
身近で起こる不可解な出来事の真相が、小気味よく明かされていく。
「シャルロットの友達」
大きなシャルロットが小さなチワワに噛みつかれる。
「シャルロットとボーイフレンド」
真澄は、迷子の柴犬ハナコを保護した。だが、飼い主のもとへ連れて行くと、そこにはそっくりの柴犬ハナコがいて。
「シャルロットと猫の集会」
早朝の散歩で、真澄は猫の集会を見る。ケガをした子猫を見つけ保護したが、何度か通るうちに「大きい犬禁止!」とまるでシャルロットが通るのを嫌っているような貼り紙を見つける。
「シャルロットと猛犬」
シャルロットを貸してほしいと無遠慮に言ってきた初対面の女性が、土佐犬らしき猛犬を飼い始めた。ひょんなことから真澄は彼女の妹と知り合うが。
「シャルロットのお留守番」
庭の花壇で靴跡を見つけた。暑くも寒くもない季節。シャルロットに庭での留守番をさせるが、なぜか吠えなかった。
「猫の集会」で、野良猫を守ろうとした小学生兄妹に、浩輔が言った言葉が、胸に残った。
「でも、ぼくになにができるんですか。猫のために……」
そのことばで気づく。彼は猫が好きなのだ。そしてたぶん、千尋ちゃんも。
浩輔は言った。
「大人になるまで待つんだ。大人にならないと、自分以外のだれかを守るのは難しいから」
寂しそうな顔になった太一くんに、わたしは言った。
「大人になったら、できることはたくさんあるよ」
自分で飼うことや、野良猫を保護すること、保護団体に寄付すること。どれも子供には難しい。だが、あと十年も待てばなにかをはじめることはできる。
なにしろシャルロットがキュート! それが、この小説集の大きな魅力だ。
動物を飼うには、大きな責任が伴います。
あなたとあなたの家族は、二十年間、毎日犬をさんぽにつれていけますか。
そう訴えているのは、沢田俊子著『犬たちよ、今、助けに行くからね』。
犬の保護活動をしている金本聡子さんと犬たちを描いたノンフィクションです。シャルロットを読んで思い出しました。
随筆屋。
Webライター。
1962年東京生まれ。
2000年に山梨県北杜市に移住。
2012年から随筆をかき始める。
妻であり、母であり、主婦であること、ひとりの人であることを大切にし、毎日のなかにある些細な出来事に、様々な方向から光をあて、言葉を紡いでいきたいと思っています。
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