「逃げ道のない女という性を抉るように描く」と謳われる島本理生の連作小説集は、4人の女性がそれぞれ一人称で語る4編が収められている。
その4編ともに、なにか過去を抱える神父、金井が登場し、宗教が物語の軸に置かれている。
「夜のまっただなか」
神学を学ぶ女子大生の琴子。たまに飲みに行くだけの好きでもない男と成り行きで初体験をする。
「琴子ちゃん、泣き顔、可愛いな」
と言われて、一方的にキスされ、なんか小さい子犯してるみたい、すげー、と嬉しそうに囁かれるたび、どうして付き合ってもいない人とこんなこと、と気持ちが白々する一方で、気がつくと、どこかで耳にしたような細く甘えた声がホテルの暗い天井に反響していました。
「サテライトの女たち」
愛人を本業にし、何人もと夜を過ごす、結衣。囲われている川端にひどい仕打ちを受け、つきあっているホストのルイに八つ当たりし殺す一歩手前まで酒を飲ませてしまう。
「男の人から好きだって言われると、死んでほしくなるんです。そんなこと言っても結局、イエスみたいに私の代わりに罪を負ってくれないから」
「雪ト逃ゲル」
交わらない条件で結婚し、ほかの男と寝続けている小説家。恋人Kを束縛しきれない自分に苛立ち、別れを切り出した。
「飲み会は誰が来るか全部事前に教えて。元恋人がいる場所には顔を出さないで。家には終電の前に帰って。あと新しく出会った女性との連絡先の交換もしないで。FacebookやTwitterでの承認や相互フォローも」
フロントガラスに文字が書いてあるかのように、目の前を見つめながら条件を並べた。
「静寂」
男を愛せないアラサーのカウンセラー、更紗。
「あんたがうちの有栖を洗脳したんでしょう。あんなにいい子だったのに、最近は最近は電話にも出ずに、私が反対していた男と同棲まで始めて、全部あんたのせいよ。有栖から散々診察料ふんだくって、そのことを親の私に知られたら来なくなると思ったから、私を悪者にして有栖を洗脳したんでしょう」
4人それぞれに抱えたトラウマが、彼女たちの性を歪めた形に作り上げていた。
性に囚われ、自分を見失い、あるいは深く潜りこんだ部分を見つめて研ぎ澄まされ、細く細く限られた道を進むことしかできなくなる。
女は、人としての尊厳を守ることが難しい。男よりもずっと。神が作り上げたたがいの身体が、そうできているのだ。そしてだからこそ男は、過ちを犯し続ける。
傷ついているすべての女性に向けて、かかれた小説なのかもしれない。
けれど読んでいて、とても苦しかった。
ひと言でいうと、酷くグロテスクな小説でした。
随筆屋。
Webライター。
1962年東京生まれ。
2000年に山梨県北杜市に移住。
2012年から随筆をかき始める。
妻であり、母であり、主婦であること、ひとりの人であることを大切にし、毎日のなかにある些細な出来事に、様々な方向から光をあて、言葉を紡いでいきたいと思っています。
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