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はりねずみが眠るとき

昼寝をしながら本を読み、ビールを空けて料理する日々

『大人は泣かないと思っていた』

九州の田舎町での話だが、ここ北杜市と共通するところが大きい。田舎だという点において。

平成大合併で村から町へと名前が変わったことや、同じ市内でも田舎比べをしているところ、祭りや冠婚葬祭に女性が台所仕事に駆り出されるところ(これはここ20年ほどでずいぶん変わったみたいだけど)、熊や猪が出る、すぐに噂が広まる、同じ苗字が多い、などなど。

 

農協勤めの時田翼(32歳)は、78歳になる父、正雄とふたり暮らしだ。家は秘境とも言えるド田舎で徒歩で行ける家は隣りだけ。その隣りの絹江さん(80歳)と父親はたいそう仲が悪い。

あの女はゆず泥棒だ、うちの庭のゆずを盗んだ、とさっきから父がやかましい。

という件から、小説は始まる。

しかし、ゆず泥棒を捕まえると、見知らぬ若い女だった。

 

連作短編である物語は、語り手を変えて進んでいく。

母親の再婚相手となかなか馴染めない小柳レモン(22歳)。

年上で離婚歴がある恋人との結婚を、親に反対されている時田鉄也(32歳)。

夫と高校生だった翼を置いて、家を出た母、広海は、仕事に生きがいを見いだすも、いまだ罪悪感を抱えている。共同経営者の千夜子が言う。

「いろんなひとを傷つけもしたし、迷惑をかけたもの。でも過去があっての、今のあたし。だからどうせ頭をつかうのなら、あの時こうしてたらどうなったかな、なんてことじゃなくて、今いるこの場所をどうやったらもっと楽しくできるか、ってことを考えたいのよね」

親友の結婚に焦りを隠せない翼の同僚、平野貴美恵(30歳)は考える。翼と結婚できたらそれは妥当だと。

定年まで勤め上げ、3人の子供を養ったと自負する鉄也の父、義孝だが、家族のなかで疎外感を覚えていた。

ラストは再び、翼の語りだ。

自分の知らないところで、いろんなひとたちに心配されたり世話を焼かれたりしているのだと思い知った。「誰にも頼っちゃいけない」なんて、たいした思い上がりだったということも。

なよなよするな、泣くなと子供の頃から父親に叱られ続けた翼は、大人は泣かないと思っていた。

けれど無論、大人だって人目をはばからず大声で泣きたいときがある。

そんな大人たちの涙を描いた小説集だった。

読み終えてから表紙を見ると、翼とレモンだな~とわかります。

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PROFILE

プロフィール
水月 さえ

随筆屋。

Webライター。

1962年東京生まれ。

2000年に山梨県北杜市に移住。

2012年から随筆をかき始める。

妻であり、母であり、主婦であること、ひとりの人であることを大切にし、毎日のなかにある些細な出来事に、様々な方向から光をあて、言葉を紡いでいきたいと思っています。



『地球の歩き方』北杜・山梨ブログ特派員

 

*このサイトの文章および写真を、無断で使用することを禁じます。

 

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