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はりねずみが眠るとき

昼寝をしながら本を読み、ビールを空けて料理する日々

『天国旅行』

三浦しをんの短編集『天国旅行』は、心中や自殺をモチーフにした7編が収められている。

 

「森の奥」

義父母の介護に追われ、会社では早期退職を勧められ、息子がバイクで幼稚園児をはね、青木ヶ原樹海に入った富山。自殺しようと思ったのは妻への腹いせだ。

「妻に『あなたが死んだら、保険金が入るのに』と言われた。そこまで言うなら、実行してやろうと思ってね」

死に損なった富山は、サバイバル慣れした若い男に助けられるが、青木と名乗る男は積極的に助けようとはしないのだった。

 

「遺言」

「やっぱりあのとき死んでおけばよかったんですよ」

きみがそう言うのは五十八回目くらいで、正直なところいい加減うんざりだ。

ここからスタートするこの話は、〈きみ〉に宛てた〈私〉の遺言だ。〈きみ〉は、ともに過ごした人生の節目節目に死を持ち出しては〈私〉に突きつけてきた。

 

「初盆の客」

ウメおばあさんの初盆に訊ねてきた男は、すでにこの世にはいないはずの男だった。

 

「君は夜」

どろどろとねっとりした怖さを持つ”怪談”とも言える物語。

理紗は、子供の頃から2つの世界を生きてきた。夜眠ると江戸時代の貧しい長屋で夫、小平と暮らすお吉という女だ。小学生の頃すでにセックスも体験していたし、初潮を迎えると布を詰める対処法をして、母親に嫌な顔をされた。

だが大人になるにつれ、眠ってからの世界は淡く消えていった。理紗は、妻子ある男を小平の生まれ変わりだと、運命の恋だと信じ、のめり込んでいく。

 

「炎」

毎朝同じバスに乗る亜利沙が憧れる立木先輩は、校庭で焼身自殺した。先輩の恋人だった同級生の初音に、自殺の原因を突きとめようと持ちかけられる。

 

「星くずドライブ」

まったく迂闊ではあるが、僕は香那が死んでしまったことにしばらく気づかなかった。

大学生の佐々木は、交通事故で死んだ香那の幽霊とつきあい続ける。香那の身体は冷たい。夏ならまだいいと佐々木は思うが、季節が移り替わり辛くなってくる。

 

「SINK」

日高の両親は、5歳の彼と3歳の弟を乗せたまま、車で海に沈もうとした。両親と弟は死に、日高は生き残った。節介焼きの親友が早く所帯を持てと女を紹介してくるが、家庭を持つ自分をイメージできず、いつもうまくいかない。母親の手を振りほどいた記憶が彼を苦しめていた。

「母は俺と一緒に助かりたかったのかもしれない。俺だけ生き残るのはかわいそうだと思って、引きとめようとしてくれたのかもしれない。真実がどこにあるのかは、たしかめようがありません」

死という重いテーマを扱っていて、しかし空気は意外にもカラッとしている。なんだろう、この感じ。死と生とが同じ線上にあり、たがいに浮上したり沈んだり、空気も同レベル。

なんか、もしかしたら死んでもあんまり変わんないのかな。ついつい、そう思っちゃう。

けれど、読む人はみな知っている。その大きな違いを。

小説のそこここにあるのは、人とのつながり。愛だった。だからこそ、明るさのなかに点在する切なさに胸を打たれる。

『天国旅行』というタイトルを置くことにも、ユーモアのセンスと人としての器の大きさを感じた。

うーむ。自分はいったいどんな死に方をするのやら。

表紙絵は、天国のイメージ?

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PROFILE

プロフィール
水月 さえ

随筆屋。

Webライター。

1962年東京生まれ。

2000年に山梨県北杜市に移住。

2012年から随筆をかき始める。

妻であり、母であり、主婦であること、ひとりの人であることを大切にし、毎日のなかにある些細な出来事に、様々な方向から光をあて、言葉を紡いでいきたいと思っています。



『地球の歩き方』北杜・山梨ブログ特派員

 

*このサイトの文章および写真を、無断で使用することを禁じます。

 

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