村上春樹の短編集『女のいない男たち』(文藝春秋)を、読んでいる。
2話目の『イエスタデイ』は、木樽(きたる)という名の大学時代の友人について、主人公、僕(谷村)が一人称で語る形式をとっている。
木樽はビートルズの『イエスタデイ』を関西弁に訳し風呂でよく歌っていた。
♩ 昨日は あしたのおとといで おとといのあしたや ♩
東京は田園調布出身の木樽は、神戸出身の谷村からみても、完璧な関西弁を喋った。阪神タイガースの熱烈なファンで、わざわざ関西にホームステイして学んだという。その木樽に、谷村は頼みごとをされる。
「なあ、谷村、そしたらおれの彼女とつきおうてみる気はないか?」
木樽には、小学生の頃からつきあっている女の子がいた。
一貫して出てくる谷村の自己分析が、面白い。(以下、本文から)
うまく言葉が出てこなかった。大事な時に適切な言葉が出てこないというのも、僕の抱えている問題のひとつだった。
(じゃあ、デートしましょうと木樽の彼女が言った時)
何かがいったん決定されてしまってから、どうしてこうなってしまったのかと考え込んでしまうところも、僕の抱える問題のひとつだ。
(木樽の彼女とのデートが、決まってしまった時)
誰かにすぐ大事な相談をもちかけられてしまうことも、僕の抱える恒常的問題のひとつだった。
(木樽とのこれからについて、彼女に相談をもちかけられた時)
決めの台詞を口にしすぎることも、僕の抱えている問題のひとつだ。
(16年後再会した彼女が、回り道し続けている自分を持て余している様子に「僕らはみんな終わりなく回り道をしているんだよ」と言いそうになった時)
この短編は、彼女が繰り返し見たという夢が鍵になっていて、その夢の存在が、小説全体を切なく美しいラブストーリーに創り上げている。
なーんて、分析しちゃうのが、わたしの抱える問題のひとつかも知れないな。
最初で最後のデートに、谷村が彼女を誘ったのは、小さなイタリアン。
写真はイメージです(笑)7年前に夫とイタリアを旅した時のもので、
ローマの中心部から川を超えた『トラステベレ』という地域です。
「ピザとキャンティ・ワイン?」と木樽は驚いたように言った。
「ピザが好きやなんて、ちっとも知らんかった」
彼女が見た夢は、長い航海をする大きな船の船室から見た風景でした。
写真は、ヴェネツィアです。ゴンドラには、乗れませんでした。
夢のなかの風景は、夜でした。海には月が映っていました。
写真はフィレンツェのヴェッキオ橋から見た、夕暮れです。
photo by my husband
随筆屋。
Webライター。
1962年東京生まれ。
2000年に山梨県北杜市に移住。
2012年から随筆をかき始める。
妻であり、母であり、主婦であること、ひとりの人であることを大切にし、毎日のなかにある些細な出来事に、様々な方向から光をあて、言葉を紡いでいきたいと思っています。
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