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はりねずみが眠るとき

昼寝をしながら本を読み、ビールを空けて料理する日々

『女のいない男たち』(4)

友人宅で、ふたり、のんびりと家飲みし、気持ちよく酔っぱらっていた。
その帰り、中央線。都心に向かう各駅停車での出来事である。
22時を過ぎた金曜の夜。それも大型連休に入る前日だ。車両には、立っている人が5人ほどで、空いている席もあった。全体にまったりとした雰囲気が漂っているのは、酔っているせいだったのだろうか。
わたしは、行きの電車で読み終えたばかりの村上春樹『女のいない男たち』(文藝春秋)と、小さなショルダーバッグを膝の上に置き、ドアの隣の端の席で、手すりに頭をもたれかけ、斜めに車内を眺めるでもなく観ていた。

 

友人は、とても素敵に明るく笑う女性で、彼女と話すと、真剣に悩み事を語り合った夜でさえ、すっと心が軽くなるような不思議な力を持っている。また気配りの人でもあり、わたしのグラスには、飲めども飲めども、泡のたった新しく冷たいビールがまるで湧いてくるかのように継ぎ足されていく。自分で思っているよりも、ずいぶんと酔っぱらっていたのかも知れない。

 

そんな風にして観た電車のなかの風景は、何処か現実とズレているような錯覚をさせた。ふと、隣に座っているOL風の女性が、舟を漕いでいるのを肩に感じ、彼女の膝に目を落とした。膝の上の開かれたままの本に、一瞬にして2つのワードを読みとってしまう。
「シェエラザード」と「羽原(はばら)」。

『女のいない男たち』に収められた4話目の短編「シェエラザード」だと判る。

 

「シェエラザード」は、何かの理由で「ハウス」に隔離された羽原と、そこに連絡係として食料などを運ぶシェエラザード(とは、羽原がこっそりつけたニックネームで、彼女の前でそう呼ぶことはない)の話だ。シェエラザードは、捉えどころのない話を、訪ねる度に羽原に語り聞かせるのだった。

「私の前世はやつめうなぎだったの」とあるときシェエラザードはベッドのなかで言った。とてもあっさりと「北極点はずっと北の方にある」と告げるみたいにこともなげに。   

わたしは、そっと自分の膝の上の本をショルダーバッグで隠した。彼女は、舟を漕ぎ、また目覚め、本のページをめくり、また舟を漕いだ。


静かに車内を、見回してみる。そして想像する。この電車に乗るすべての人が『女のいない男たち』を鞄に忍ばせているんじゃないかと。
立っている人達が、海の底でゆらゆらと揺れる水草のように揺れていく。あるいは、シェエラザードが羽原に話した、水草に紛れて揺れる「やつめうなぎ」のように。わたしは1冊の本を読み終えた充実感と、友人の笑顔を思いつつ、くつくつ笑いたくなるのを必死にこらえながら、ただそれを見つめていた。

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ライトなビールが大好きなふたり、バドワイザーで乾杯♩

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アボカドのカルパッチョ、さっぱりレモン味で、うーん、ボーノ!

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ご主人がご帰宅。ちゃんと西京焼きと野菜たっぷりナムルを用意していて、
身体のことに、気を使ってるんだよなぁ、と感心しました。
「お酒は、イケる方なんですか?」と聞かれ「少々」と答えました。
「その少々が、一番怖いですね」と、笑っていただき(?)ました。

PROFILE

プロフィール
水月

随筆屋。

Webライター。

1962年東京生まれ。

2000年に山梨県北杜市に移住。

2012年から随筆をかき始める。

妻であり、母であり、主婦であること、ひとりの人であることを大切にし、毎日のなかにある些細な出来事に、様々な方向から光をあて、言葉を紡いでいきたいと思っています。



『地球の歩き方』北杜・山梨ブログ特派員

 

*このサイトの文章および写真を、無断で使用することを禁じます。

 

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