今年出版された瀬尾まいこの文庫本。
主人公は、大学1年の梨木匠。彼の一人称で物語は綴られている。
ナンバーワンにもオンリーワンにもなれる要素がなくて、個性と言えるようなものは一つも持ち合わせていない。どの集団にいても、ちょうどまんなか平均値に居座っているのがぼくだ。
そんな梨木君は、一つだけほかの人にはない能力を持っている。
それは、人の心を読む力だ。
初めてその力に気づいたのは、中3の秋。不登校の三雲さんが初めて登校してきた日、教室には入れず固まっている彼女に、ハッとした。全員が冬服に更衣していたなか、彼女は白い夏服のままだった。梨木君は、いても立ってもいられず学ランのボタンを外した。
「この中、学校のYシャツ着てないんだ。パジャマにしてるTシャツのまま。しかも、昔から着てるTシャツで、ドラえもんの柄だよ。超ダサいだろう? 朝、時間がなくてそのまま学ランはおったんだ。暑いから、学ラン脱ぎたくても、このTシャツはないだろうとずっと我慢してる。これ、夏服なんかよりずっと浮いてるだろう」
そんな彼は、高校時代、この能力のせいで自分に気がある女子とつきあってはフラれ、もう恋人はつくれないのかなと軽く悩みつつ、バイトしながら大学生活を謳歌している。
バイト先は、おいしいオムライスが評判の店で、まかないもうまいが、バイトがすぐにやめる。店長の口の悪さ、態度の悪さに次の日から来なくなるのだ。
そこに、梨木君を持ってしても、まったく心が読めない2つ年上の女性、常盤さんが入ってきた。
店長の毒舌にもひるまないが、いくら話しかけても会話がはずむことはない。そんな彼女のいる辺りから、いつしか”声”が聞こえるようになった。梨木君にだけ聞こえる、彼に話しかけるような”声”なのだ。
「人には踏み込むのに、自分の深いとこは開かずに適当な話ばっかするじゃん」
店長にそう言われる梨木君には、どんな過去があるのか。なぜ、人の心が読めるようになったのか。謎の”声”の主は、いったいなんなのか。
最後に、後日談の掌編「アフターデイズ」2編が収められている。語りは、口の悪い店長だ。新たに登場するキャラクターや、梨木君のその後も楽しめる。

2022年に出版された長編の文庫化です。華やかなタルトの表紙に惹かれました。

随筆屋。
Webライター。
1962年東京生まれ。
2000年に山梨県北杜市に移住。
2012年から随筆をかき始める。
妻であり、母であり、主婦であること、ひとりの人であることを大切にし、毎日のなかにある些細な出来事に、様々な方向から光をあて、言葉を紡いでいきたいと思っています。
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