今年いちばんに紹介する本は、彩瀬まるの『新しい星』。
短編連作のような趣だが、読み終えた感覚では長編だった。8話の短編の間に時間が流れ、ラストまでに10年以上経つことも、そう感じる要因だろう。
主人公は学生時代、合気道仲間だった青子、茅乃、玄也、卓馬の4人。
たとえば表題作で冒頭の「新しい星」では、森崎青子(あおこ)の視点で語られる。
30歳の青子は、3年前に生まれて2ヶ月の女児、なぎさを亡くし、子どもを育みにくい身体であることがわかる。そして、子供をあきらめきれない夫と離婚した。
よい恋愛をしたと思っていたし、よい結婚をしたと思っていた。よい出産、よい子育てへ、道はまっすぐに続いていくのだと意識すらせずに信じていた。展望を失い、一時的に実家へ身を寄せた青子は、汚水を吸った綿にでもなった気分だった。
2話目「海のかけら」は、安堂玄也(げんや)視点だ。
31歳の玄也は、エンジニアとして入社した会社でダメ社員の烙印を押され退職。実家の部屋にひきこもっていた。道場に行く気になったのは、茅乃(かやの)が乳癌の手術をしたから励まそうと誘われたからだった。
「しんどいことだから、かやのんと青さんの二人だけじゃなく、四人で耐えた方がいいって思ったんだよ。やばいってときに機転が利くだろうし、誰かが辛くなったら交代もできる。二人じゃ周囲に目を配れなくても、四人ならなんらかのチャンスを見逃さずに済むかもしれない」
卓馬(たくま)の言葉に、玄也は、ようやく自分のことを話す気になった。
4話目「温まるロボット」は、花田卓馬の視点。
時代はコロナ禍に突入し、卓馬の妻は4歳の娘を連れて里帰り出産をした。その妻に、東京に戻りたくないと言われ、喧嘩になる。
青子、茅乃、玄也、卓馬の4人は、リモート飲み会をしていた。
「話し合うのが怖かったんだよな、きっと。自分たちが、なにか問題を抱えているかもしれないって想像すること自体がいやだったんだ」
6話目「月がふたつ」は、日野原茅乃の視点。
30歳で乳癌の手術をしてから4年目に再発と骨への転移が判明した。それから3年。12歳になり思春期に入った娘、菜緒とうまくいかない。
「私は菜緒をを傷つけてる。最低だよ。さっさといなくなった方がいいくらい」
「負った傷は、大人になったら自分で治すよ。私たちだってそうだったじゃないか。ちゃんと大人になるよ。だから菜緒ちゃんをどうにかしようとするんじゃなくて、茅乃は自分を満たすことを考えて生きた方がいいよ」
4人のなかでいちばん近く感じられたのは、玄也だった。
みんな立派になって安心したいのだ。そのために立派じゃなさそうな自分を一生懸命に隠す。立派に思われようとする。もしくは、立派であろうとして無理をする。
そんな自分を受け入れられず、あるいは受け入れて、苦しみもがき、みんな生きている。
直木賞にノミネートされています。発表は1月19日だそうです。
随筆屋。
Webライター。
1962年東京生まれ。
2000年に山梨県北杜市に移住。
2012年から随筆をかき始める。
妻であり、母であり、主婦であること、ひとりの人であることを大切にし、毎日のなかにある些細な出来事に、様々な方向から光をあて、言葉を紡いでいきたいと思っています。
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