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はりねずみが眠るとき

昼寝をしながら本を読み、ビールを空けて料理する日々

『暗い越流』

若竹七海に、ふたたびハマった。短編ミステリーの名手である。

短編集『暗い越流』には、葉村晶ものも2つ、最初と最後に入っている。無論、彼女は不運に襲われる。「仕事はできるが不運すぎる女探偵葉村晶」シリーズなのだから。

 

「蠅男」

初っぱなから、葉村晶が襲われるシーンから始まる。

足を踏み出した瞬間、背後に風を感じた。

とっさにくるりと反転した。それがいけなかった。いっそのこと、自分から階段を飛び降りるべきだった。どういうわけか、わたしの場合、正しい方法に気づいたときにはたいてい手遅れなのだ。

一瞬、そいつの顔を見た。蠅男だ、と思った。

依頼者は、山奥の祖父の家から、母親の遺骨をとってきて欲しいというのだが。

 

「暗い越流」

多摩川沿いで5人を無差別殺人した死刑囚に、ファンレターが届いた。

語りは出版社に勤める〈私〉。弁護士から持ち込まれたそれを、記事にするか考えていると〈死ねない男〉の情報が入る。男に会いに行くと、思いもよらずファンレターの差出人が5年前に行方不明になっていたことが判明する。

「あんな手紙で山本優子が殺されたことをどうやったら立証できるっていうんだろう。そもそも、死んでいるのか生きているのか、それすらわかってないんでしょう?」

「なのに娘は死んでいると」

「そこはゆるぎないみたいですね」

「おかしいんじゃないの、そのオヤジ」

「幸せの家」

小さな出版社の『Cozy Life』は、ていねいな暮らしを描いた売れ筋雑誌だ。語りの〈わたし〉は、この雑誌のファンで入社したライター。自らネルドリップした珈琲を淹れ、早起きして床を拭く”Cozy Life”を実践している。

突然行方不明となった編集長の代わりに、ていねいな暮らしをしている読者を訪問し記事をかくことになったが、やがて編集長が変死していることがわかる。

 

「狂酔」

男の自己紹介から始まる語りは、暗闇で数人に向かって男がしゃべっている形でラストまで続く。場所は教会の一室で、どうやら男は、シスターたちに恨みを持っているらしいことがだんだんわかってくる。男は、7歳のときに誘拐事件に巻き込まれていた。

 

「道楽者の金庫」

またしても初っぱなから、葉村晶が襲われるシーンだ。

ため息をついて、背を向けた。それがいけなかった。だいたい、長い間、ひとりで生きてきた女は、他のなにを信じなくとも、自分の神経だけは信じるべきだったのだ。

そう気づいたときには手遅れだった。家鳴りよりもはるかに大きな物音がして、振り返ったときには巨大な棚がこちらに向かって倒れてくるところだった。

死んだ父の金庫を開ける鍵は、”こけし”に隠されているらしい。その”こけし”を探しに葉村晶は福島にある別荘に向かったのだが。

 

解説の近藤史恵は、かいている。

ノンシリーズの短編には、シリーズものとは違う容赦のなさがある。のんびりとフィクションを楽しんでいたかと思うと、いきなり目の前に刃を突きつけられているような気分にさせられる。

たしかに葉村晶シリーズ以外の3編には、そういうひやりとした冷たい気持ち(快感ともいえる)にさせられるオチが待っていた。

ミステリーって、愉しい。

表題作は、第66回日本推理作家協会賞短編部門受賞作だそうです。

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PROFILE

プロフィール
水月 さえ

随筆屋。

Webライター。

1962年東京生まれ。

2000年に山梨県北杜市に移住。

2012年から随筆をかき始める。

妻であり、母であり、主婦であること、ひとりの人であることを大切にし、毎日のなかにある些細な出来事に、様々な方向から光をあて、言葉を紡いでいきたいと思っています。



『地球の歩き方』北杜・山梨ブログ特派員

 

*このサイトの文章および写真を、無断で使用することを禁じます。

 

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