森絵都の短編集『気分上々』。
年末に読んだ『チーズと塩と豆と』の「ブレノワール」がとてもよくて、収録された短編集を図書館で探した。
「17レボリューション」は、17歳の恋や友情を。
表題作「気分上々」は、中学生の初恋周辺のゴタゴタを、どちらもコミカルに描いている。
ちなみに表題作タイトルは中学生男子たちが必死になって観ようとしたエロビデオ「無修正・今宵も気分上々」から来ている。
根は真面目なのに、男子的欲望や友達との空気に流されてしまう中二の主人公、柊也は、小学校からずっと一途に思っている依林(イーリン)とギクシャクしていた。それもこれも、父親の遺言のせいだ、と柊也は思っている。
「柊也、いい男になれ。いい男はむやみにべらべらしゃべらない。グチも弱音も吐かない。なにがあっても言いわけしない。男は黙って我慢だ」
特に好きだったのは、「本物の恋」と「ヨハネスブルグのマフィア」。
「本物の恋」は、8年前に一度会っただけの男と偶然再会した〈私〉。
彼は、過去の恥ずかしいところを見られたと肩をすくめるが、〈私〉にとっては忘れられない出来事だった。
八年経った今でさえ、ふりかえると心がきしむように疼く。
「私はあれ以来、誰かのことを強く思うたび、あなたのことを思い出します」
予期せぬ再会を果たした〈私〉は、過去の出来事の新たな側面に驚かされるのだった。
「ヨハネスブルグのマフィア」は、十年前一年足らずの付き合いで別れた恋人との出来事を語る。
情熱よりも実技で、言葉よりも指先で女を愛する男だった。国籍を超越したその技巧はかつてない肉体の目覚めを喚び起こし、私は自分の中にいまだ手つかずの領域が多々残されていた事実に瞠目した。眠らせておくには惜しい資源をはらんだ土壌。
〈私〉は、彼との経験をもとにある決断をする。
四十九年と二ヶ月間生きてきて起こらなかったことも、四十九年と三ヶ月目には起こりうる。起こってもいいのだ、と。
ほかに、「ウェルカムの小部屋」「彼女の彼の特別な日 彼の彼女の特別な日」「東の果つるところ」「本が失われた日、の翌日」など全部で9編。
結局のところ、なんといっても「ブレノワール」が最高だったけど。
2012年に、刊行された短編集です。
「ダ・ヴィンチ」「野性時代」「non-no」「yom yom」などに掲載された短編が収録されていました。
随筆屋。
Webライター。
1962年東京生まれ。
2000年に山梨県北杜市に移住。
2012年から随筆をかき始める。
妻であり、母であり、主婦であること、ひとりの人であることを大切にし、毎日のなかにある些細な出来事に、様々な方向から光をあて、言葉を紡いでいきたいと思っています。
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