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はりねずみが眠るとき

昼寝をしながら本を読み、ビールを空けて料理する日々

『陸王』

池井戸潤の新刊『陸王』(集英社)を、読んだ。
「こはぜ屋」は、創業百年の老舗足袋屋。時代の流れには逆らえず、従業員20人の零細企業をやっとのことで切り盛りしている。銀行からの融資を引き出そうと四苦八苦していた社長の宮沢は、思いつきから新規事業を立ち上げる。老舗足袋屋のノウハウを活かした、足に優しいランニングシューズを開発しようというものだ。シューズの名前は「陸王」。「こはぜ屋」で、昔々に作っていたマラソン足袋の名からとったものだ。
資金難にあえぎながらも、ソール(靴底)素材開発まで漕ぎ付けた「こはぜ屋」だが、新規参入の難しさに加え、大手シューズメーカーの悪質な妨害に悩まされる。以下本文から。

 

「もし君が今回他社のシューズを選んだとしても、私やうちの社員たちが、君を応援し続けるということは変わらない。みんなそれを承知で、君にメッセージを届けたいと思ったんだ。それだけは忘れないでくれ」
「宮沢さん・・・」
茂木の胸を温かなものが満たしていく。
「たまにはいいじゃないか、こういうのも」
宮沢はいった。
「私は『陸王』というシューズを企画して、試行錯誤しながらここまで来た。その過程でいろんなことを学ばせてもらったけど、中でも特に、教えられたのは人の結びつきだ」
意外なひと言だった。
「金儲けだけじゃなくてさ、その人が気に入ったから、その人のために何かをしてやる。喜んでもらうために何かをする。ギャラがこれだけだから、これだけしかしないという人もいるけど、そうじゃないんだな。カネのことなんかさておき、納得できるものを納得できるまで作る」
宮沢は澄んだ目をしていた。
「社長がそんなこといってちゃいけないかもしれないけど、損得勘定なんて、所詮カネの話なんだ。それよりも、もっと楽しくて、苦しいかもしれないけど面白くて、素晴らしいことってあるんだな。それを『陸王』が教えてくれた」

 

人のために、何かをしたい。それは果たして、生き方として正しいのかと言う人もいる。「人の為」とかいて「偽り」だ、自分の人生なのだからと。
それでも人は人とのつながりがなければ、生きてはいけない。そんなあたりまえのことが、ページをめくるたびに心にしみていく小説だった。

 

大好きな友人の口癖を、思いだした。
人間は自分のためだけじゃなく人のために生きるようにデザインされている。
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新聞広告を見て、夫がすぐさま購入し、読み始めました。
Kindleの、それが大きな利点の一つ。彼が読み終えてから借りました。
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店名の「こはぜ」は、足袋のかかと上部についた金具のことでした。
ソール、アッパーも、小説のなかで頻繁に登場するシューズ用語です。

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PROFILE

プロフィール
水月

随筆屋。

Webライター。

1962年東京生まれ。

2000年に山梨県北杜市に移住。

2012年から随筆をかき始める。

妻であり、母であり、主婦であること、ひとりの人であることを大切にし、毎日のなかにある些細な出来事に、様々な方向から光をあて、言葉を紡いでいきたいと思っています。



『地球の歩き方』北杜・山梨ブログ特派員

 

*このサイトの文章および写真を、無断で使用することを禁じます。

 

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