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はりねずみが眠るとき

昼寝をしながら本を読み、ビールを空けて料理する日々

『I LOVE YOU』

15年ほど前に読んだアンソロジーを、再読した。

2005年の夏に出版された、人気男性作家6人が思い思いにラブストーリーをかいた小説集だ。

娘の部屋に置きっぱなしになっていたのを、発掘した。購入したのはわたしで、その後娘たちに薦めたのだろう。

 

無論すべて読んでいて、15年経った今も覚えている小説もあった。

伊坂幸太郎の「透明ポーラーベア」は、仙台の八木山動物公園まで白熊を観に行ったし、中田永一の「百瀬、こっちを向いて」は大好きで、映画も観た

ほか、石田衣良、市川拓司、中村航と、その頃読んでいた作家が揃っている。

本多孝好もそのひとりで、過去ブログには3冊ほど感想がかかれていた。

 

記憶には残っていなかった本多孝好の「Sidewalk Talk」を再読し、衝撃を受けた。

こんな小説を忘れてしまうんだ、自分、と。

 

主人公の〈僕〉は、結婚して5年の妻と別れることになった。銀座の店でディナーを共にし、穏やかに別れようという最後の食事は企画された。

それぞれが両親に報告した反応や、引っ越し先を探していることなど、会話が交わされるなか、彼女が問う。

「私との付き合いのなかで、一番いい思い出って何?」

〈僕〉はすべてが色褪せてしまったように思えて答えられずにいたが、学生時代、出会った頃のことを彼女が話し、若かったねと言い合った。

しかし食事を終えて、別れる間際。彼女が隣りをすり抜けたとき、〈僕〉は、圧倒的な何かに、荒れ狂うほどの激情に襲われる。

記憶?

二十歳の僕が聞いた。

そう、と二十歳の彼女が頷いた。嗅覚を司るのは大脳の旧皮質なの。そして旧皮質の両側にあるのが海馬っていって、これが記憶を司っているのね。

だから?

だからね、と、二十歳の彼女が笑った。嗅覚は五感の中でいちばん記憶に直結している部分なの。

ええと、それが?

それが、今日、香水をつけてきた理由。あなたはきっと、この香水を嗅ぐたびに今日のことを思い出す。あなた自身の中で言葉にすら変換されていない、一番ピュアな感情をね、思い出してくれるんじゃないかって。

彼女は、そのとき以来まとうことのなかった香水をつけていたのだった。

 

素敵すぎる。ラブストーリーって、やっぱ、いいな。

帯が陽に焼けていて、カバーがところどころ破けています。高校生や中学生だった娘たちは、すっかり大人になりました。

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PROFILE

プロフィール
水月 さえ

随筆屋。

Webライター。

1962年東京生まれ。

2000年に山梨県北杜市に移住。

2012年から随筆をかき始める。

妻であり、母であり、主婦であること、ひとりの人であることを大切にし、毎日のなかにある些細な出来事に、様々な方向から光をあて、言葉を紡いでいきたいと思っています。



『地球の歩き方』北杜・山梨ブログ特派員

 

*このサイトの文章および写真を、無断で使用することを禁じます。

 

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