原田マハの短編集『星がひとつほしいとの祈り』には、「沈下橋」が収められている。四万十の話だ。
60歳になる多恵は、四万十川のほとりの黒尊村集落にひとり暮らし、村はずれの食堂「しまんぬ」で働いている。
そんな彼女のもとに、かつての夫の娘、由愛(ゆめ)から電話がかかった。
母娘として5年ほど暮らした時期もあったが、父親とも離婚し、人気歌手となった血のつながらない娘と連絡を取り合うこともなくなっていた。
警察に追われ、逃げていることは客の会話で知っていた。大麻を吸っていたという。
ようやく落ち合った由愛をかくまって逃げ、小さな釣宿で一夜を過ごすことにした多恵。
夜の沈下橋に、ふたりたたずむ。
この橋になればいい、と多恵は、震える背中を撫でながら思う。
嵐のときには水に沈み、じっと耐える橋。空が晴れ渡れば、再び姿を現す沈下橋に。
思いつつも、口にはできない。不器用なのだ。この母も、この娘も。
実際に四万十川の沈下橋をいくつか渡ってから読み直すと、小説のなかの空気感が変わっていた。
以前読んだときには、想像力が追いついていなかったのだろう。
そしてさらに小説のなかの土佐弁に、湿った体温を感じていることを知る。
「どこにおるが?」「うちに来たら、えいき」「迎えに行くがやき」
「もうっ。この子ははちきん(おてんば)なんやき」
償って戻ってきたって、もう自分を待ってくれている人はいない。そう言う由愛に、多恵は自分の胸を叩く。
「何ゆうちょるん。ここにおるがね」
いちばん最初に渡った仁淀川の「名越屋沈下橋」です。
車1台がようやく渡れるほどの幅で、怖かった。
映画『竜とそばかすの姫』にも登場する仁淀川の「浅尾沈下橋」です。
映画「君が踊る、夏」「県庁おもてなし課」などのロケ地にもなっているとか。
こちらは、四万十川。屋形船から見た「三里沈下橋」です。四万十川には沈下橋だけで47もあるんですね。
少し上流の「勝間沈下橋」です。
子供たちが川遊びをするという「上宮(じょうぐう)沈下橋」です。
だんだん渡るのも、慣れてきました。
ラストは、普通の橋から撮った「若井沈下橋」です。
すぐそばにJR予土線の若井駅があったので、名前がわかりました。
単線ですが、ちゃんと点字ブロックが敷いてありました。
随筆屋。
Webライター。
1962年東京生まれ。
2000年に山梨県北杜市に移住。
2012年から随筆をかき始める。
妻であり、母であり、主婦であること、ひとりの人であることを大切にし、毎日のなかにある些細な出来事に、様々な方向から光をあて、言葉を紡いでいきたいと思っています。
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