義母を見送り、久しぶりに、本棚の金子みすゞ童謡集を開いてみた。
本棚のいちばん端、いつも見えるところにあるので、長く開いていなくても存在はずっと確かなものとしてそこにあった。
『わたしと小鳥とすずと』『このみちをゆこうよ』『明るいほうへ』の3冊で、たぶん義母と仙崎を旅したあとに、購入したのだと思われる。20年以上も前のことだ。
その『わたしと小鳥とすずと』を、最初からていねいに読み返してみた。
有名な表題作や、大漁を喜ぶ裏で、海では何万もの鰯の弔いをするだろうと歌う「大漁」、昼間の星もたんぽぽの種も、見えぬけれどもあるんだよと歌う「星とたんぽぽ」、みんなを好きになりたい、何でも、誰でもと歌う「みんなをすきに」などが収められている。
そんな覚えている童謡もいくつかあったが、まったく記憶になく新しい気持ちで読んだものがほとんどだった。なかでも惹かれた「つゆ」と「夕顔」は、植物を独特の視点で描写した作品だった。
〈つゆ〉
だれにもいわずにおきましょう。
朝のお庭のすみっこで、
花がほろりとないたこと。
もしもうわさがひろがって
はちのお耳にはいったら、
わるいことでもしたように、
みつをかえしにゆくでしょう
花がたたえる朝露に、想像を膨らませたメルヘン。
〈夕顔〉
お空の星が夕顔に、
さびしかないの、とききました。
おちちのいろの夕顔は、
さびしかないわ、といいました。
お空の星はそれっきり、
すましてキラキラひかります。
さびしくなった夕顔は、
だんだん下をむきました。
夜が更けて夕顔がしぼむ様を描写した、こちらもメルヘンだ。
あらためて、金子みすゞはいいなと再確認している。
この3冊です。選・矢崎節夫、装画・高畠純。
最初に出版された『わたしと小鳥とすずと』。帯には「星とたんぽぽ」の抜粋が置かれていました。
義母が持っていたパンフレットに載っていた「わたしと小鳥とすずと」。
2冊目『このみちをゆこうよ』。
3冊目『明るいほうへ』。
随筆屋。
Webライター。
1962年東京生まれ。
2000年に山梨県北杜市に移住。
2012年から随筆をかき始める。
妻であり、母であり、主婦であること、ひとりの人であることを大切にし、毎日のなかにある些細な出来事に、様々な方向から光をあて、言葉を紡いでいきたいと思っています。
*このサイトの文章および写真を、無断で使用することを禁じます。
管理人が承認するまで画面には反映されません。