引き続き、宮部みゆき初期のミステリを再読している。
1993年に刊行された、ほんとうにもう、ものすごく好きだった連続短編集だ。
覚えていたのは、主人公が腕のいい泥棒で、なぜか双子の中学生男子の偽物の父親になるということ。
この親子(?)が、心根のいい奴らだったってこと。
舞台が、東京近郊の住宅街だっていうことくらいだ。
「step」には「契約を結ぶことで親族になった」という意味があるらしい。
親の再婚により兄弟になったなら「stepbrother」だし、結婚したらパートナーの母親は「stepmother」になる。
契約で結ばれ、泥棒は双子の「stepfather」となる。
両親がそれぞれ愛人を作り駆け落ちした双子の直(ただし)と哲(さとし)は、何不自由なくふたりで暮らしていた。問題は遺棄児童として通報され、今の暮らしが失われること。
そのために必要なものは、偽の〈親〉だったのである。
彼らのステップファザーとなった語り担当の〈俺〉が、事件解決のホームズ役。ミステリは、〈俺〉によって解き明かされていく。
表題作から始まり、片仮名ばかりで統一された章タイトルが洒落ている。
「トラブル・トラベラー」
倉敷の真似をしてまちづくりをしようとした架空の街で、双子の片割れ哲(さとし)が立てこもり犯の人質に。直(ただし)は顔面蒼白だ。
「ワンナイト・スタンド」
〈俺〉は、哲の学校の授業参観にいくハメになるが、美人の担任教師は好みのタイプ。けれど、なにかがおかしい。
「ヘルター・スケルター」
湖底に沈む男女の白骨死体が見つかった。双子の両親かと〈俺〉は疑う。まさか、双子が?
「ロンリー・ハート」
双子と親しくなるにつれ、〈俺〉は居心地が悪くなる。
「ハンド・クーラー」
双子の年下のガールフレンド、みやびちゃんの家の庭に投げ入れられる山形新聞の謎。
「ミルキー・ウエイ」
〈俺〉がいつものように双子の家を訪ねると、本物の父親がいた。
読み終えて思うのは、いつのまにか彼らが大好きになっていたわということだ。
こんな家族があったっていい。
ミステリであり、極上のホームコメディだった。
明日のことを思い煩うなかれ
〈俺〉から、すべての読者にプレゼントされた言葉である。
講談社文庫。マザーグースの栞が好き。ミステリの文庫特集が入っていました。
2010年の51版を購入しているので、たぶん13年くらいまえですかね。
本屋でつい、ここにあった北村薫の『盤上の敵』を衝動買いしちゃった!
随筆屋。
Webライター。
1962年東京生まれ。
2000年に山梨県北杜市に移住。
2012年から随筆をかき始める。
妻であり、母であり、主婦であること、ひとりの人であることを大切にし、毎日のなかにある些細な出来事に、様々な方向から光をあて、言葉を紡いでいきたいと思っています。
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