辻村深月『ツナグ』は、10年ほど前に読んだ連作短編集だが、設定以外はすっかり忘れていた。
死者に会うチャンスが一度だけある。使者(ツナグ)が仲介者を務め、死者が承諾すれば満月の夜に一晩だけ会うことができる。生きているあいだに一度だけ、死んでからも一度だけしかそのチャンスは与えられない。
・突然死したアイドルに、さえない20代後半のOLが~「アイドルの心得」
・癌で逝った母に、家を継いだ50代の長男が~「長男の心得」
・ケンカしたまま事故死した親友に、女子高生が~「親友の心得」
・失踪したまま帰らない婚約者に、30代半ばの会社員が~「待ち人の心得」
それぞれ振り切れない思いを抱えながら、死者に会いに行く。
使者(ツナグ)が、容姿のいい今風の男子高校生だというところが、洒落ている。こいつは、死神かなんかなのか? と謎を抱えたまま読み進めた。
「世の中が不公平なんて当たり前だよ。みんなに平等に不公平。フェアなんて誰にとっても存在しない」
愛美は、夜道でアイドルのサヲリに助けられ、そう言われたことがあった。
同僚たちから言われた言葉を、反芻する。
「いつも暗くて、怖い本読んでる」「人生損してるよね」「友達いるのかな」
見栄っ張りの母親は、エリートと結婚して海外赴任に同行していると周囲に嘘をついていた。兄の結婚式にも暗に来るなと言う。
何もかも嫌になった彼女が会いたいと思ったのは、サヲリだけだった。
ラストの章は「使者の心得」だ。
ここで使者(ツナグ)は何者なのか、どんな人物なのか、すべての謎がクリアになりすっきりと着地する。
伏線回収のすごさに、サプライズに、唸った。
帯に「連作長編小説」とあり、読むまえにはなぜ連作短編集としないのだろうと首を傾げたが、たしかにこれは長編小説だ。
心残りは、いつだって人を苦しめる。
死者は、何も言わず、戻ることはない。
だけどもし、一度だけ、一晩だけでも会って気持ちを分かつことができたら。
ブログをかき始めるまえ、2010年に出版された小説なので、記録がありませんでした。覚えていないものだなあ。
2012年には、映画化もされていたんですね。使者は松坂桃李。樹木希林も出ていました。
随筆屋。
Webライター。
1962年東京生まれ。
2000年に山梨県北杜市に移住。
2012年から随筆をかき始める。
妻であり、母であり、主婦であること、ひとりの人であることを大切にし、毎日のなかにある些細な出来事に、様々な方向から光をあて、言葉を紡いでいきたいと思っています。
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