お金の話は、けっこうおもしろい。
人は三千円の使い方で人生が変わるよ、と祖母は言った。
美帆が、中学生のときのことだった。
社会人となった美帆は三千円のハーブティを淹れるガラスのポットを買おうかと迷ったときに、それを思い出す。
祖母はティーポットにロイヤルコペンハーゲンの磁器を大切に、そして毎日使っている。三千円で買えるものではないけれど、日割り計算すれば1年三千円を切っているだろう、と。
美帆、24歳。会社員。ひとり暮らし。貯金30万円
真帆(姉)27歳。専業主婦、三歳の佐帆の子育て中。貯金600万円。
智子(母)55歳。専業主婦、習い事に熱心。貯金100万円。
琴子(祖母)73歳。夫を見送りひとり暮らし。貯金1千万円。
美帆は、「貯金して、戸建て住宅を買い、保護犬を飼う」という目標を立てた。
「毎月八万円ずつ、それにボーナス時に二万円ずつ貯めます。そうすると、あら不思議。一年に百万円が貯まっちゃうの! そして、一年に百万ずつ貯められれば、三十代のあなたは六十歳の定年までに三千万、二十代のあなたなら四千万貯まります」
小説は、主役を変えて展開する。
1千万円を貯めた琴子は、しかし、自分がいつか介護に費用がかかるようになったらと考えると、不安になり、就活を始めた。
消防士の夫を持つ真帆は、安月給をやりくりし、年に100万円貯金する堅実派。だけど、短大時代の友人たちとの女子会で、自分の生き方が他人にどう映っているのか気になり始め、気持ちが揺らいでしまう。
金がなくなればバイトをするという行き当たりばったりの生き方をしてきた40歳の小森安生(琴子のガーデニング仲間)は、だらだらとつきあってきた恋人に、精子を提供してくれれば結婚はしなくてもいいと言われ、愕然とする。
子宮癌の手術で入院した智子は、退院したその日にさえ食事を妻任せにする夫に、呆然。親友の離婚話が、智子の気持ちに拍車をかける。
そんななか美帆は、結婚を考えていた恋人、沼田翔平に「親が勝手に申し込んだ奨学金550万円を、社会人になったのだから自分で返せと言われた」と打ち明けられるのだが。
お金の話は、大切だ。金銭感覚は、親しい友人でも家族でもそれぞれに違っているだろう。それなのに、面と向かって話をすることはなんとなくはばかられる。気軽に話すことができないのは、その人の人となりを映す魔法の鏡のような意味合いを持つからだろう。逆にお金の話をすれば、ある程度その人のことがわかるとも言える。
そしてそこには、持っているものの違いも当然顔を出す。仲のよかった兄弟が、遺産相続で揉めるという話をよく聞くのも、自然なことだ。
自分は浪費家ではないと自負しているけれど、倹約家と言えるほどの自信はない。何を切り詰め、何に遣うか。年金生活に突入するのも間近の今、考えるべき岐路に立っているのかもしれない。
上の絵が姉、真帆の家族。真ん中が、美帆。下の千円が、御節作りをする母、智子と真帆、そして祖母、琴子です。
「プチ稼ぎ」や「ポイ活」のヒントも、載ってるよ。
随筆屋。
Webライター。
1962年東京生まれ。
2000年に山梨県北杜市に移住。
2012年から随筆をかき始める。
妻であり、母であり、主婦であること、ひとりの人であることを大切にし、毎日のなかにある些細な出来事に、様々な方向から光をあて、言葉を紡いでいきたいと思っています。
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