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『僕は秋子に借りがある』

久しぶりに手に取った森博嗣は、自薦短編集だった。

『僕は秋子に借りがある』

インパクトのあるタイトルだ。

いったい、なんの借りがあるのだろう。

 

13編の小説には、すべて英語のタイトルが添えてある。

「虚空の黙禱者」Silent Prayer in Empty

「小鳥の恩返し」The Girl Who was Little Bird

「赤いドレスのメアリィ」Mary is Dressed in Red

「探偵の孤影」Sound of a Detective

「卒業文集」 Graduation Anthology

「心の法則」 Constitutive Law of Emotion

「砂の街」The Sandy Town

「檻とプリズム」A Prism in the Cage

「恋之坂ナイトクラブ」 Gliding through the Night Koinosaka

「素敵な模型屋さん」Pretty Shop of Models and Toys

「キシマ先生の静かな時間」The Silent World of Dr. Kishima

「河童」Kappa

「僕は秋子に借りがある」I'm in Debt to Akiko

 

いちばん好きだったのは「小鳥の恩返し」

個人病院の医者だった父親が殺害され、島岡清文(34歳)は跡を継ぐことになった。同時に島岡病院の看護師、綾子と結婚した。

島岡は、結婚のいきさつをこう自己診断している。

短期間に急変した「生活の断層」に生じた僅かな隙間を埋めようとする防御行為だった、と分析できないこともない。

綾子は父殺しの第一発見者で、逃げた男が持っていた小鳥を不憫に思い世話をする心優しい女性だった。

ある晩、行方不明のままの男の妻だという女が、小学生くらいの子供を連れ、清文を訪ねてきた。見るからに生活に困窮している身なりだ。子供の小鳥を父親が酔って取り上げ、出て行ったのだという。

「名前は?」

「キヨシ」

「キヨシ君か……。うん、それじゃあね、こうしよう」

小鳥を連れて帰ることすら今の暮らしではできずにいる母子に、清文は提案した。

「君の小鳥は僕が預かるけど、君はいつだって見にきていいんだよ」

それから4年、母子は姿を現すことはなかったが、清文は小鳥を可愛がり、綾子に代わって世話をするようになっていた。ところが、小鳥はふとした拍子に逃げてしまう。

それからさらに4年が経ち、若い看護師見習いの白坂美帆が島岡病院で働くようになった。よく気がつき仕事をてきぱきとこなす明るい女性だ。

彼女が、突拍子のないことを言い始めたのである。

「私、ついこのまえまで、鳥だったんですよ」

「え? 何だって?」

「小鳥です」白い歯を見せて美帆は微笑む。真っ直ぐに清文を見つめていた。

「小鳥……って?」

「先生にお世話していただきました」

このことは、ふたりだけの秘密にして下さいと美帆は言う。
英語のタイトルも「The Girl Who was Little Bird」だ。

 

「僕は秋子に借りがある」も素敵な小説だった。

秋子は破天荒で底抜けに明るい女で、話しているすべてが嘘か本当か、僕にはわからない。

この短編集のなかで、2番目に好きだった。

どんな借りなのか、ぜひ読んで欲しい。

表紙の写真は、小林伸一郎とありましたが、ネット検索してもどこなのかわかりませんでした。海外かなあ。

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PROFILE

プロフィール
水月

随筆屋。

Webライター。

1962年東京生まれ。

2000年に山梨県北杜市に移住。

2012年から随筆をかき始める。

妻であり、母であり、主婦であること、ひとりの人であることを大切にし、毎日のなかにある些細な出来事に、様々な方向から光をあて、言葉を紡いでいきたいと思っています。



『地球の歩き方』北杜・山梨ブログ特派員

 

*このサイトの文章および写真を、無断で使用することを禁じます。

 

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