米澤穂信〈小市民〉シリーズは、2004年に発売された『春季限定いちごタルト事件』から始まり、2006年『夏季限定トロピカルパフェ事件』、2009年『秋季限定栗きんとん事件』(上・下巻)と進んでいく。
そして、2020年、11年ぶりの『巴里マカロンの謎』刊行。
心穏やかで無害で易きに流れる小市民を目指す、あのふたりが帰ってきました!
ということで、「巴里マカロンの謎」「紐育チーズケーキの謎」「柏林あげぱんの謎」「花府シュークリームの謎」4編から成る最新刊を開いた。
このタイトル群、「巴里」以外は読めないな~と思っていたら、
「紐育」→「ニューヨーク」
「柏林」→「ベルリン」
「花府」→「フィレンツェ」
と、すべて海外の地名だった。なんとも洒落ている。
すべて、小山内さん生きるところのスイーツの名前なわけだが、ニューヨークチーズケーキは知ってはいても、マカロンはパリで、シュークリームはフィレンツェ発祥なのかと、そんな豆知識にも興味が沸く。ベルリンあげぱんに至っては聞いたこともなかったが、ジャムの代わりにマスタードを詰める悪戯が伝統として残っているとは、ドイツもなかなかおもしろい。
あ、言っておくと、この文庫は、『秋季限定栗きんとん事件』の続きではない。
ふたりが高校1年の秋頃の、小さな事件を集めている。
「巴里マカロンの謎」
小鳩君は、オープンしたてのマカロンの店に小山内さんと出かけた。4種類あるマカロン。オーダーできるティー&マカロンセットは、3つのマカロンのみ。テイクアウトはできない。だからの小鳩君要員。ところが、小山内さんが席を立った隙に、マカロンは4個になっていた。
「……何度も念を押してごめんね。これ、小鳩くんからの小粋な誕生日プレゼントってことは、ないよね?」
「紐育チーズケーキの謎」
今度は、中学校の文化祭に同行する。小山内さんの目的は、ニューヨークチーズケーキともうひとつ。ところが。なになに、小山内さん。拉致されるのは「トロピカルパフェ事件」が初めてじゃなかったの?
「柏林あげぱんの謎」
健吾がいる新聞部で、事件が起きた。ジャム入りのベルリン風あげぱん「ベルリーナー・プファンクーヘン」には、代わりにマスタードを入れて悪戯するという風習があるらしい。その取材体験のはずなのに、4人が食べたあげぱんには、どれもマスタードは入っていなかった、のか!?
「花府シュークリームの謎」
小山内さんをスイーツの師匠と慕う女子中学生が、いわれもなく停学処分を受けた。中学生たちが飲酒していた年越しパーティーにいたと何者かが学校に密告したらしい。
「あたし、あのときはなんだか楽しかったから深く考えずに、でもシュークリームはフィレンツェのお姫さまがフランスに伝えたって聞いたことあります、って答えたんです」
高校1年の秋は、小山内さんにとって受難の季節だったんだね。
でもそれも、ハッピーエンド。
続きがないってことはないはず。だって、中学の頃のふたりの事件簿が証されてないもん。
楽しい時間だったなあ。小鳩君、また君の語り口が聴きたいよ。
表紙絵は、トロピカルパフェもいいけど、やっぱり最新刊がいちばん好きかな~
随筆屋。
Webライター。
1962年東京生まれ。
2000年に山梨県北杜市に移住。
2012年から随筆をかき始める。
妻であり、母であり、主婦であること、ひとりの人であることを大切にし、毎日のなかにある些細な出来事に、様々な方向から光をあて、言葉を紡いでいきたいと思っています。
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