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はりねずみが眠るとき

昼寝をしながら本を読み、ビールを空けて料理する日々

『希望の糸』

〈加賀恭一郎〉シリーズ最新刊。新刊は、2019年に刊行されていた。

『祈りの幕が下りる時』以来だから、ページを捲るのは6年ぶりだ。

今回は、主役を従弟の松宮脩平に譲り、物語は展開する。

 

〈プロローグ〉は15年前。

新潟地震で小学生の娘と息子を失った、汐見行伸と玲子。ふたりは、ふたたび子供を産み育てようと決意し、不妊治療の末やがて娘を授かった。

 

舞台は金沢に移り、料亭「たつ芳」の女将、芳原亜矢子目線で語られる。

末期癌で入院中の父の遺言書に、聞いたこともない「松宮脩平」という名がかかれていた。綾子は、松宮と連絡を取ることにする。

 

一方、警視庁捜査一課の松宮は、東京、自由が丘のカフェ「弥生茶屋」にいた。

店主、花塚弥生(51歳)が刺殺された現場である。凶器は、シフォンケーキナイフで店にあったもの。金品は盗られておらず、怨恨の線が濃いと考えられるが、弥生を知る人はみな口を揃えたようにいう。明るく親切で前向きな素晴らしい女性だったと。

「巡り会いを大切にしているとおっしゃっていたことがあります。いろいろな人との巡り会いが人生を豊かにするって。結果的には離婚したけれど、別れた旦那さんとの巡り会いも貴重な財産だと思うから、結婚したことは後悔していないといっておられました」

カフェの常連客の証言だ。

「妊娠中のお客さんなんかには、もうすぐ素晴らしい巡り会いがありますね、楽しみですね、と声をかけておられました。赤ちゃんにとってお母さんとの対面は、人生における最初の巡り会いというわけです」

いくら聞き込みを続けても、弥生のことを悪くいう人は誰ひとりいなかった。

 

今回、加賀恭一郎は、カフェ店主殺人事件で立ち上げられた捜査本部で、松宮たちのリーダーをしている。

殺人事件と、金沢の遺言書の件とが平行して進んでいく。加賀は、松宮のよきアドバイザーとして、頼りがいのある従兄として、彼の話を聴いていく。

 

やがて思わぬ展開から、早々に犯人は見つかった。

けれどその自供には、真実の根っこの部分が欠けているのではないか。松宮は、ひとり真実へと向かいつつも、ほんとうにそれを暴いていいものなのかと悩むのであった。

「自分にとって大切な人間と見えない糸で繋がっていると思えたら、それだけで幸せだって。その糸がどんなに長くても希望が持てるって」

糸とは、決して“血のつながり”だけではない。

絡み合い、どうしようもなくなって、途方にくれた何本もの糸は、果たしてまっすぐに誰かと誰かをつなぐことができるのだろうか。

人と人とを結ぶ糸は、恋愛でなくとも”赤い糸”で表現されるものなのでしょうか。新刊の装幀にも、赤い糸が使われていました。やっぱり“血”なんでしょうね。

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PROFILE

プロフィール
水月

随筆屋。

Webライター。

1962年東京生まれ。

2000年に山梨県北杜市に移住。

2012年から随筆をかき始める。

妻であり、母であり、主婦であること、ひとりの人であることを大切にし、毎日のなかにある些細な出来事に、様々な方向から光をあて、言葉を紡いでいきたいと思っています。



『地球の歩き方』北杜・山梨ブログ特派員

 

*このサイトの文章および写真を、無断で使用することを禁じます。

 

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