2021年の本屋大賞ノンフィクション本大賞受賞の『海をあげる』は、沖縄生まれの女性がかいたエッセイだ。
琉球大学教育学研究科教授で、普天間基地の近くで暮らしている。
沖縄の性暴力についてかいた『裸足で逃げる~沖縄の夜の町の少女たち』の著者でもある。
著者は幼い女の子を持つ母親でもあり、娘、風花と過ごす時間や娘の様子などもかかれているが、『海をあげる』は、沖縄に生まれ暮らす理不尽を、その怒りをかいたものだ。
沖縄に米軍基地があることについて、その怖さと騒音について、基地による水道水の水質汚染について、その水を飲む子供たちについて、戦争の痛みを抱え続けている人たちについて、米兵による性犯罪に脅えて暮らす女性たちについて、そこに暮らす住民が口を閉ざざるを得ない現実について、かかれていた。
娘はほんとうに水が好きな子どもになった。お風呂に入ると娘は蛇口に口をつけて水を飲む。水をはったバケツがあると、娘はバケツに入って水と遊ぶ。海でも川でも、娘は水にまっすぐ入る。
そんな娘に、水道水を飲ませられない現実が、かかれていた。
辺野古の海埋め立ての住民投票をめぐりハンストしている若い男性、元山の話をすると、4歳の風花は怒る。
「ご飯を食べないと、大きくなれないさ!」
性暴力に抗議するフラワーデモに連れて行った風花が4歳の頃には、性教育を始めた。
子どもたちは本当に小さなときから性暴力の被害者になっている。何度も試される侵入行為が、決定的なものになるまでそんなに時間はかからない。
幼馴染みの恋人に援助交際させて稼いでいたホストのインタビューや、父親に性的虐待に遭っていたPTSDの女性のこともかかれていた。
そして2018年12月、辺野古埋め立ての土砂投入が始まった。
「海に土を入れたら、魚はどうなった?」
何度も訊ねる幼い風花に、大人は誰もが知っていることを答えられない。
読む前には漠然と海のブルーだと思っていた表紙が、読み終えて人間の暴力に対する怒りのように思えてきました。
随筆屋。
Webライター。
1962年東京生まれ。
2000年に山梨県北杜市に移住。
2012年から随筆をかき始める。
妻であり、母であり、主婦であること、ひとりの人であることを大切にし、毎日のなかにある些細な出来事に、様々な方向から光をあて、言葉を紡いでいきたいと思っています。
*このサイトの文章および写真を、無断で使用することを禁じます。
管理人が承認するまで画面には反映されません。