タイトルからもわかる通り、7編のうち最終話を除く6編は、いずれも出産が難しくなる年頃を迎え、産む、産まない、産めないのあいだで揺れ動く思いを抱える女性たちが登場する。
1話目『掌から時はこぼれて』
子どもができない夫婦の離婚調停に携わる39歳の女性弁護士。結婚の予定もないのだか卵子凍結に年齢制限があると知り心が揺れる。
2話目『折り返し地点』
食事制限で生理が止まった35歳のマラソンランナー。
3話目『ターコイズ』
不妊治療中の38歳の美容師。
妊娠を心待ちにし、仕事はパートに変え、身体を冷やさないように夫婦で楽しんできたサーフィンもやめた。効果があるというルイボスティーも毎日飲んでいる。
――卵巣はもっとも劣化の早い臓器。
あの言葉が思い出された。とにかく、私たちには時間がない。
ある日妊活カフェで知り合った41歳の女性と意気投合。親しく付き合うようになるが、彼女の方が先に妊娠したことを知りショックを受ける。
4話目『水のような、酒のような』
51歳の無精子症と診断された夫の視点で語られる。無精子症を受け入れられないまま、38歳の子どもを切望する妻に手術を迫られ困惑していた。
5話目『エバーフレッシュ』
夫の無精子症で子どもをあきらめた30代の観葉植物のレンタル会社社員。産休明けの6時に退社する後輩。結婚の相手もまだ決まっていないのに出産を見据え退職しようとする32歳。子どもを産まず働き続けてきた上司は、会社負担で卵子凍結ができれば女性が働きやすくなるのではと提案する。
6話目『五つめの季節』
3度目の流産で養子縁組に気持ちが傾く34歳のOLと、育てられない子どもを授かってしまった若い女性を交互に描いてゆく。
妊娠出産に悩む彼女たちは、わたしにとってすでに子どもに近い年齢だ。なので近い年齢や立場の登場人物は、当然親となる。夫の方の母親は妊娠できない嫁に苛立ち、こんなセリフを吐いていた。
「正志、どこかに、いい人いないわけ? ちゃんと産める人。そっちに子供ができちゃったら何もいえないでしょう、友美さんだって。自分にできないんだから」
こんな感覚でいる人がいまだ存在するのだろうかと疑問に思うけれど、年下の友人は、似たり寄ったりの言葉を親戚にだが投げつけられたと言っていた。
なんということだろう。これでは動物以下の扱いではないか。女性には、人としての尊厳はないのだろうか。
たぶん世のなかは、現実は、わたしが思っているよりまともじゃないのだ。ひとりひとりの心の在り方を考えるより、何も考えず、ずけずけと言い放つステレオタイプの言動が力を持ち、人の心さえ侵食していくことが繰り返されている。
それでも人として、女性として、心を失わずに生きていきたい。そんな叫びがそこここから聞こえる小説集だった。
そして、7話目『マタニティ・コントロール』は、未来の世を描いたSF的ストーリー。医学の進歩が恐ろしいと感じたのは、わたしだけだろうか。
シックな表紙。好きなタイプの絵です。『産む、産まない、産めない』という短編集が先に出版されているんですね。
随筆屋。
Webライター。
1962年東京生まれ。
2000年に山梨県北杜市に移住。
2012年から随筆をかき始める。
妻であり、母であり、主婦であること、ひとりの人であることを大切にし、毎日のなかにある些細な出来事に、様々な方向から光をあて、言葉を紡いでいきたいと思っています。
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