わたしは一日、8~10時間は眠る。
眠っているのか意識があるのかはっきりしない時間もかなりあって、夢うつつな日々である。
子供の弁当を作るのが苦手だったせいか、弁当箱を片手に、空っぽの冷蔵庫をまえに呆然と立ち尽くす夢をよく見る。悪夢である。
積読となっていた”眠り三部作”と謳われる小説集を手にとったのも、今眠りに近い場所にいるからかもしれない。
『白河夜船(しらかわよふね)』は、吉本ばななが20代半ば頃にかいたベストセラー。
「白河夜船」には、「知らないのに知ったふりをすること」と「熟睡して何が起こってもわからないこと」という2つの意味があるが、この小説に限っては後者だ。
主人公、寺子はとりつかれたように眠る。
愛人の岩永の妻は、事故で植物人間となり眠ったままだという。
親友のしおりは、大量に薬を飲み永遠に眠ったままとなってしまった。そのしおりの仕事は、どんな客にもただただ隣りで添い寝することだった。
うすうす知っていること、たとえば岩永の妻への想いに知らないふりをする癖がついた寺子は、それらを現実から遠ざけるために眠らずにはいられない。岩永もまた、それを望んでいるようなふしがある。
無意識の望みには違いないのだが、私をなるべく働かせず、いつも部屋にいてひっそり暮らすことを好み、逢う時は街の中で夢の影のように逢う。美しい服を着せて、泣くことも笑うことも淡いものを求める。
そして死を選んだ、しおりの気持ちを思う。
――その寝息に息を合わせてゆくとね、としおりは言った――その人の心の暗闇を吸いとってしまうのかもしれない。
寺子は、岩永との時間を過ごし、祈るのだった。
――この世にあるすべての眠りが、等しく安らかでありますように。
しおりも、岩永の妻さえも。
眠りには、今も解明されていない謎がある。
とりこまれ、目覚めるきっかけを掴めないまま眠り続けてしまうことだってないとは言えないのだ。
2015年に映画化されていました。その頃買ったんですね、きっと。安藤サクラと井浦新が共演しています。映画、観たいな。
芝美は兄を、いとこの鞠絵は恋人を亡くした「夜と夜の旅人」と、むかし男をとりあった女の歌声が寝入りばなに聴こえる「ある体験」の3作が収録されています。
随筆屋。
Webライター。
1962年東京生まれ。
2000年に山梨県北杜市に移住。
2012年から随筆をかき始める。
妻であり、母であり、主婦であること、ひとりの人であることを大切にし、毎日のなかにある些細な出来事に、様々な方向から光をあて、言葉を紡いでいきたいと思っています。
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